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オイラーは何故モーペルテュイを擁護したか?
—最小作用の原理を巡る誤解—
∗
有賀暢迪∗∗
モーペルテュイと最小作用の原理
最小作用の原理という言葉はモーペルテュイ(Pierre Louis Moreau de Maupertuis, 1698–1759)
が最初に使った。
✗
✔
自然において何らかの変化が起こるときには、その変化に必要な作用の量は、可能な限り少ない.
作用の量とは、諸物体の質量とそれらの速度、およびそれらが通過する距離の積である.
(Maupertuis 1746, p.298)
✖
✕
✏ 1744 年:光の反射・屈折の問題 (Maupertuis 1744)
✏ 1746 年:物体の衝突の問題 (Maupertuis 1746)
最小作用の原理を巡る先取権論争
1751 年 3 月、ケーニヒ(Johann Samuel K¨onig, 1712–1757)が論文を出版 (K¨onig 1751)
✏ 作用の理論はライプニッツの手紙の中に書かれていると指摘
その後の展開 (Terrall 2002; Winter 1957)
✏ 1751/10/7 モーペルテュイがベルリン・アカデミーに報告
→ ケーニヒに「手紙」の原本を提出するよう求めるが、ケーニヒはこれに応じず
✏ 1752/4/13 アカデミーが、「手紙」は偽物だと決議
→ 両陣営による中傷合戦へ
✏ 同年秋にはヴォルテールやフリードリヒ大王自らもこれに加わる
→ 極めて悪名高い「文学論争」となる
∗
∗∗
2006 年 11 月 4 日
京都大学文学研究科(科学哲学科学史専修・修士課程) ariga phs@yahoo.co.jp
1
オイラーは何故モーペルテュイを擁護したか?(有賀)
先取権論争におけるオイラーの関与
オイラー(Leonhard Euler, 1707–1783)はこの論争で、モーペルテュイを精力的に擁護
✏ アカデミー決議はオイラーの報告に基づく (Euler 1750a)
✏ その後もいくつかの論駁を書く (Euler 1750b; Euler 1751b; Euler 1751a; Euler 1753)
その際、この原理の「普遍性(universalit´
e)」を強調
✓
✏
およそモーペルテュイ氏の原理の力は、この上ない普遍性にある。
(Euler 1753, p.178)
✒
✑
オイラーと最小作用の原理
オイラーは 1744 年の著書で、独自の考察を行っていた (Euler 1744b)
運動する物体の軌道においては
mu ds が最小である
m:質量、u:速度、ds:軌道の曲線要素
✏ モーペルテュイはこれを自らの原理の「美しい応用」と評す (Maupertuis 1746, p.282)
…質量と速度と距離の積、という定義に合う
✏ しかし、オイラーはこれを 1743 年 4 月には見出していた
…ダニエル・ベルヌーイの手紙(1743/4/23)から分かる (Fuss 1843, t.II, pp.524–525)
伝統的な説明
オイラーがモーペルテュイを擁護した理由について、一般によくなされてきた説明は、大きく2つ
ある (Pulte 1989, pp.200-201)
「心理的」説明
…アカデミー数学部長のオイラーが、総裁のモーペルテュイに遠慮した
「形而上学的」説明
…オイラーはモーペルテュイの目的論的思考が気に入った
オイラーがモーペルテュイを擁護した主要な理由は、全く違うところにある
2
オイラーは何故モーペルテュイを擁護したか?(有賀)
モーペルテュイの「静止の法則」
モーペルテュイはベルリンに来る前、「静止の法則」を発表していた (Maupertuis 1740)
オイラーはこれを知り、その内容を一般化 (Euler 1986, モーペルテュイ宛書簡 1745/12/10)
物体が静止しているときには、 F dr の和が最小である
F :物体がある点に向かって引かれる力、r:その点から物体までの距離
1748 年の進展
オイラーはこの年の 4 月から 6 月にかけて、
「静止の法則」に関する重要な発見をする
(Euler 1986, モーペルテュイ宛書簡 1748/4/26–6/14, 計 7 通)
✏ 垂らされた糸の形状の場合: ( F dr) ds が最小
…他にも、この式が最小となるような例がある
✏ 運動する物体の軌道の場合: ( F dr) dt が最小
…この式は以前の
R
mu ds に帰着する、とされる
オイラーの理解
「絶対的な作用の量」
「静止の法則」
: F dr が最小
(quantit´
e d’action absolue)
⇓
垂らされた糸など: ( F dr) ds が最小
運動する物体の軌道: ( F dr) dt が最小
✏ オイラーは、
✏ 1744 年の
「適用された作用の量」
(quantit´
e d’action appliqu´ee)
F dr という量が普遍的である ことに気づいた
mu ds も、「適用された作用の量」と理解される
3
オイラーは何故モーペルテュイを擁護したか?(有賀)
オイラーは何故モーペルテュイを擁護したか?
「心理的」説明や「形而上学的」説明は、せいぜい副次的なものにすぎない
オイラーは「静止の法則」こそが最小作用の原理の基礎であると捉えており、
モーペルテュイがそれに関わる「普遍的な量」を与えたと理解した
最小作用の原理を巡る誤解
✏ モーペルテュイは「質量と速度と距離の積」を作用と名付けたのであり、「静止の法則」は
それとは全く無関係だと思っていたので、オイラーの議論が理解できなかった
✏ オイラーは逆に、モーペルテュイの『静止の法則』(1740) が最小作用の原理についての論文
だと思っていた
✬
R
✩
で す か ら 、こ の 点 に 対 す る 力 の 作 用 の 量 は [ F dr] で し ょ う 。こ れ は 、貴 殿 が
静止の一般法則についての作品の中で作用の量を表現する のに使われたやり方と、完璧に
一致しています。
(Euler 1986, モーペルテュイ宛書簡 1748/6/14)
※ただし、オイラーも後には「質量と速度と距離の積」だけを作用と呼ぶようになる
✫
✪
✏ 伝統的な歴史記述では、両者が「最小作用の原理」という言葉を同じ意味(モーペルテュイ
の意味)で理解していると思われている
「オイラーは何故モーペルテュイを擁護したか?」という謎自体が、
最小作用の原理という言葉を巡る様々な誤解から生まれてきたものである
4
オイラーは何故モーペルテュイを擁護したか?(有賀)
文献
LEOO = Leonhardi Euleri Opera omnia, sub auspiciis Societatis Scientiarum Naturalium Helveticae (Lipsiae et Berolini, Typis et in aedibus B.G. Teubneri, 1911–).
HASB = Histoire de l’Acad´emie Royale des Sciences et des Belles-Lettres de Berlin.
HASP = Histoire de l’Acad´emie Royale des Sciences [de Paris] avec les M´emoires de Math´ematique
et de Physique tir´es des Registres de cette Acad´emie.
Euler, Leonhard, 1744a. “Methodus inveniendi lineas curvas maximi minimive proprietate
gaudentes, sive solutio problematis isoperimetrici lattissimo sensu accepti.” in LEOO,
ser.I, vol.XXIV [originally pub. in Lausanne, 1744].
, 1744b. “Additamentum II: De Motu Projectorum in medio non resistente, per
Methodum maximorum ac minimorum determinando.” appendix to (Euler 1744a) in
LEOO, ser.I, vol.XXIV, pp.298–308.
, 1750a. “Expos´e concernant l’examen de la lettre de M. de Leibnitz, all´egu´ee par
M. le Prefesseur Koenig, dans le mois de mars 1751 des Actes de Leibzig, `a l’occasion
du principe de la moindre action.” in LEOO, ser.II, vol.V, pp.64–73 [originally pub. in
HASB, 1750 (pub. 1752), pp.52–62].
, 1750b. “Lettre de M.Euler `a M. Merian.” in LEOO, ser.II, vol.V, pp.132–142
[originally pub. in HASB, 1750 (pub. 1752), pp.520–532].
, 1751a. “Examen de la dissertation de M. le Professeur Koenig, ins´er´ee dans les
actes de Leipzig, pour le mois de mars 1751.” in LEOO, ser.II, vol.V, pp.194–213 [originally pub. in HASB, 1751 (pub. 1753), pp.219–245].
, 1751b. “Sur le principe de la moindre action.” in LEOO, ser.II, vol.V, pp.179–193
[originally pub. in HASB, 1751 (pub. 1753), pp.199–218].
, 1753. “Preface [`a Dissertation sur le principe de la moindre action avec l’examen
des objections de M. le prof. Koenig faites contre ce principe].” in LEOO, ser.II, vol.V,
pp.177–178 [originally pub. in Berlin, 1753].
, 1986. “Correspondance de Leohnard Euler avec P.-L.M. de Maupertuis et Fr´ed´eric
II.” in P. Costabel et al. eds., LEOO, ser.IVA, vol.VI. Basel: Birkh¨auser.
Fuss, P.H. ed., 1843. Correspondance math´ematique et physique de quelques c´el`ebres
g´eom`etres du XVIIIeme si`ecle. 2vols. St. P´etersbourg: [Impr. de l’Acad´emie imp´eriale
des sciences] [rep., New York: Johnson Reprint, 1968].
K¨onig, Johann Samuel, 1751. “De universali principio aequilibrii et motus in vi viva reperto,
deque nexu inter vim vivam et actionem, utriusque minimo, dissertatio.” in LEOO, ser.II,
vol.V, pp.303–324 [originally pub. in Nova Acta Eruditorum, 1751].
5
オイラーは何故モーペルテュイを擁護したか?(有賀)
Maupertuis, Pierre Louis Moreau de, 1740. “Loi du Repos des Corps.” in LEOO, ser.II,
vol.V, pp.268–273 [originally pub. in HASP, 1740 (pub. 1742), pp.170–176].
, 1744. “Accord des diff´erents loix de la nature qui avoient jusqu’ici paru incompatibles.” in LEOO, ser.II, vol.V, pp.274–281 [originally pub. in HASP, 1744 (pub. 1748),
pp.417–426].
, 1746. “Les Loix du Mouvement et du Repos d´eduites d’un Principe
M´etaphysique.” in LEOO, ser.II, vol.V, pp.282–302 [originally pub. in HASB, 1746 (pub.
1748), pp.267–294].
Pulte, Helmut, 1989. Das Prinzip der kleinsten Wirkung und die Kraftkonzeptionen der rationalen Mechanik: eine Untersuchung zur Grundlegungsproblematik bei Leonhard Euler,
Pierre Louis Moreau de Maupertuis und Joseph Louis Lagrange. Stuttgart: F. Steiner.
Terrall, Mary, 2002. The man who flattened the earth: Maupertuis and the sciences in the
enlightenment. Chicago: University of Chicago Press.
Winter, Eduard ed., 1957. Die Registres der Berliner Akademie der Wissenschaften 1746–
1766. Documente f¨
ur das Wirken Leonhard Eulers in Berlin. Berlin: Akademie-Verlag.
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