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フランスにおける民間医療保険の動向 - 損保ジャパン日本興亜総合研究所

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2006.12. Vol. 46
フランスにおける民間医療保険の動向
目
次
Ⅰ.本稿の目的と構成
Ⅱ.フランスの医療保障制度の概要
Ⅲ.フランスの民間医療保険
Ⅳ.近年の公的医療保険制度の動向と民間保険者の受け止め方
研究員
中村
要
約
岳
Ⅰ.本稿の目的と構成
本稿では、フランスの公的医療保険制度の概要、公的医療保険と民間保険との関係等について整理する
とともに、民間保険において中心的な役割を果たしている共済組合等に対するインタビューをもとに、民
間保険の実務や、医療保障制度における民間保険の位置づけを具体的に示す。また、近年の公的医療保険
制度の改革動向と、民間保険者への影響についても紹介する。
Ⅱ.フランスの医療保障制度の概要
フランスでは、職業別に並立する公的医療保険制度と、低所得者等を対象とした医療給付である普遍的
疾病給付によって、「国民連帯」の理念に基づいた国民皆保険が実現されている。また、公的医療保険と、
その自己負担部分等を対象に保険金を支払う民間医療保険とによって、ほぼ医療費の全額がカバーされる
仕組みとなっており、公的保険と民間保険との二階建ての保障によって医療保障が成り立っていると受け
止められている点が特徴である。
Ⅲ.フランスの民間医療保険
フランスでは、非営利の保険者である共済組合が民間医療保険市場の最大のシェアを持っている。また、
民間医療保険の商品内容や引受けに関して、公的医療保険政策との整合性が保たれている点が特徴である。
本章では、民間医療保険の商品、販売方法、収支管理の事例として、共済組合へのインタビュー内容も紹
介する。
Ⅵ.近年の公的医療保険制度の動向と民間保険者の受け止め方
2000 年に導入された普遍的疾病給付の現状、2004 年に行われた医療保険改革の内容について整理し、
それぞれに対する民間保険者の受け止め方を紹介する。
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損保ジャパン総研クォータリー
Ⅰ.本稿の目的と構成
1.本稿の目的
フランスの医療保障制度は「国民連帯」を基本理念とし、原則として全住民を対象とした公的医療保険
制度が構築されている。これに加え、民間の保険者が提供する、主として公的医療保険の自己負担部分を
カバーする補足的な医療保険に対しても政府の権限が強く、また、加入率も非常に高いことから、公的医
療保険と民間医療保険との二階建ての医療保障制度となっている点が大きな特徴である。
最近では、2000 年に施行された普遍的疾病給付法によって、公的医療保険の自己負担部分をカバーする
補足医療保険についても、全住民が加入できるような政策がとられている。2004 年に行われた医療制度改
革においては、公的医療保険の給付内容の見直しの方向性に沿って、民間医療保険の商品内容に関する規
制が行われた。また、民間保険者が医療政策に関する交渉、提言を行う機会が広げられるなど、医療保障
制度の一部を担うものとしての民間医療保険という特徴がより鮮明になっている。
民間医療保険に関しては、古くから発展してきた共済組合制度が中心的な存在となっている点が、他の
欧州諸国とは異なる大きな特徴である。筆者は、2005 年 12 月にフランスで現地調査を行い、共済組合の
連合会と個別の共済組合へのインタビューを通じて、民間医療保険市場の主要なプレーヤーである共済組
合の実務や、公的医療制度の動向に対する見方などについて聴取した。また、医療提供者である病院と、
政策当局である保健省へのインタビューも行った。
本稿では、これらのインタビューで得られた情報を紹介することにより、フランスにおける民間医療保
険の実務や、医療保障制度における位置づけを具体的に示すことを目的とする。フランスにおける近年の
医療制度改革と、民間保険者への影響についても紹介する。また、民間医療保険の実務等を理解するため
の前提として、公的医療保険制度の概要、公的医療保険と民間医療保険との関係、医療提供者の種類等に
ついて簡単に整理している。
なお、現地調査で訪問した先は以下のとおりである。
・共済組合連合会:FNMF(Fédération Nationale de la Mutualité Française)
・共済組合:SMI(パリに所在する大手共済組合)
・病院:L’Institute Mutualiste Montsouris(パリに所在する共済組合連合会が運営する公的病院)
・フランス保健省
2.構成
本稿では、最初にフランスにおける公的医療制度と民間医療保険、および両者の関係について整理し、
次に民間医療保険市場の概要と、民間保険者の実務を紹介する。最後に、近年の医療制度改革の概要を整
理し、民間保険者の見方について紹介する。
Ⅱ.フランスの医療保障制度の概要
1.公的医療保険制度の概要
(1)職業別の制度体系
フランスでは、原則として全住民を対象とした公的医療保険制度が存在する。19 世紀から発達してきた
職業別の共済組合制度を基盤として、第二次大戦後に社会保険方式の医療保険制度を発足させた経緯によ
り、現在の医療保険制度は、職業別に並立する複雑な制度となっている。
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2006.12. Vol. 46
公的医療保険制度は、民間商工業の被用者を対象とする一般制度(régimes général)、鉱夫、船員、国
鉄職員等の特殊職域の被用者を対象とする特別制度(régimes spéciaux)、自営業者を対象とする制度
(régimes non salariés)、農業従事者を対象とする制度(régimes agricoles)に大別され、一般制度が国
民の約 80%をカバーしている。医療保険制度の管理運営は、各制度に設けられた疾病金庫(caisse)が行っ
ている。一般制度の場合、全国被用者疾病金庫(Caisse Nationale d’Assurance Maladie des Travailleurs
Salarié:CNAMTS)のもとに、地方疾病金庫(Caisse Régionale d’Assurance Maladie:CRAM)、初級
疾病金庫(Caisse Primaire d’assurance maladie)が設けられ、初級疾病金庫が実質的な給付事務を行っ
ている。
公的医療保険制度の財源は、制度発足当初は社会保険料のみであったが、高齢化による医療費の増大等
に 対 応 す るた め に 、 徐々 に 租 税 代替 化 が 進 めら れ 、 現 在で は 税 ( 一般 福 祉 税 、Contribution Sociale
Généralisée)の割合が 4 割近くに達している。
(2)給付内容
公的医療保険の給付は、入院医療費、外来医療費、薬剤費等の医療サービスが対象となり、医療サービ
スや疾病の種類によって給付の割合が異なる。また、同じ医療サービスであっても、制度ごとに給付の割
合が少しずつ異なっている。一般制度の場合、入院医療費は 80%、開業医による一般的な医療行為は 70%、
一般の薬剤は 65%、胃薬など医学的な貢献度が低いとみなされる薬剤は 35%などとなっており、これ以外
の部分が患者の自己負担となる。患者の自己負担額が医療費に占める割合は、一般制度の場合、約 9%で
ある 1。
なお、予防のための各種健診、労働災害、妊娠・出産、長期療養が必要な特定疾患については、例外的
に公的医療保険が 100%の医療費を負担する。
被保険者による医療機関の選択は、従来は完全に自由であったが、後述のとおり、2004 年に行われた医
療制度改革において、かかりつけ医の登録・受診が求められるようになっている。
(3)普遍的疾病給付
1999 年以前は、職業別に発展してきた医療制度の谷間で、公的医療保険の受給資格のない者(離婚した
女性、寡婦で子供が 3 人以上いない者、資産はあるが働いていない者、社会保障給付を受給しようとしな
い者など)が無保険者となっていた。しかし、2000 年 1 月に施行された普遍的疾病給付(La couverture
maladie universelle:CMU)法では、これらの人々は自動的に一般制度に加入することができることと
し、低所得者に対する保険料の減免が実施された(「基礎的疾病給付」と呼ぶ)。これにより、15 万人の無
保険者を含む 75 万人が一般制度に加入することとなった 2。
また、同法では、民間の補足医療保険(後述)に加入できない低所得者層に対し、公的医療保険の自己
負担部分に対する保障が無料で与えられることとなった(「付加的疾病給付」と呼ぶ)。所得制限以下の低
所得者は、公的医療保険の保険者である疾病金庫と民間保険者のどちらかを選択してこの保障を得ること
医療経済研究機構「フランス医療関連データ集 2005 年版」(2006 年 3 月)、p74
European Commission, “Evolution of social protection in the European Member States and the
European Economic Area”, Directorate-General for Employment and Social Affairs Unit EMPL/E.2
(visited Dec. 11, 2006)
<http://europa.eu.int/comm/employment_social/publications/2001/keaa01002_en.pdf>
1
2
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損保ジャパン総研クォータリー
ができ、保険料を負担することなく医療サービスを受けることができる。ただし、差額ベッド代など、公
的医療保険の給付を超える医療サービスについては、付加的疾病給付ではカバーされない。フランス保険
協会(Fédération française des sociétés d’assurances:FFSA)によると、普遍的疾病給付法がスタート
して 1 年後の 2001 年 12 月 31 日までに 460 万人が付加的疾病給付の対象となった。その 14%(約 64 万
人)が民間保険者を選択し、一般の保険会社を選択したのは約 10 万人であった 3。
普遍的疾病給付法により、現在では、原則的に全ての住民がほとんど自己負担することなしに医療サー
ビスを受けられる、国民皆保険が実現されている。
2.民間医療保険の概要
フランスでは、一般の保険会社、共済組合、相互扶助組合が、公的医療保険で給付されない医療費をカ
バーする補足医療保険を販売している。補足医療保険の給付対象となるのは、公的医療保険における自己
負担部分と、差額ベッド代、私費診療の医療費など、公的医療保険の給付を超える医療費である。
フランスでは、民間医療保険の加入は任意でありながら、その加入率が非常に高い点が特徴である。普
遍的疾病給付法が施行される以前の 2000 年の時点でも、フランスの人口の 86%が補足医療保険に加入し
ており 4、普遍的疾病給付法により、現在では原則的に全ての住民が補足医療保険に相当する保障を得られ
るようになっている。
民間医療保険の加入率が高い理由は、もともと民間における職域単位の共済制度が発展しており、その
主要な部分を分離させる形で公的医療保険を発足させた経緯による。このため、フランスでは、公的医療
保険と民間医療保険の二階建ての制度によって医療給付が保障されていると考えられており、民間医療保
険は公的制度を補足する役割を果たすことが期待されている。
なお、フランスにおける公的医療保険と民間医療保険との関係を簡単に図で示すと《図表 1》のとおり
となる。
《図表 1》フランスの公的医療保険と民間医療保険との関係
給付
公的医療保険制度
差額ベッド代、私
費診療等
公的医療保険の給付対象外(民間保険)
職業別の公的医療保険制度
公的制度と民間保険の選択が可能
(一般制度、特別制度、農業制度等)
付加的
公的医療保険の自
疾病給付
己負担部分
所得
(出典)損保ジャパン総合研究所作成
3
4
FFSA “French Insurance in 2001” ,p18.
FFSA “French Insurance in 2001”,p.17.
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3.医療機関の種類と医療費の支払い方法
フランスの医療機関には、公的病院、民間病院、自由開業医の 3 種類がある。それぞれの概要と医療費
の支払方法は以下のとおりである。
(1)公的病院
フランスの公的病院は、24 時間すべての患者を受け入れることを条件として、公的病院サービス参加病
院(Paticipant Service Hospitalier Public:PSPH)として認可された病院のことである(必ずしも公立
の病院ではない)。公的病院に勤務する医師は一般的に俸給制によって収入を得ている。
公的病院に支払われる医療費は、従来、前年度の活動実績をもとに決定された年度ごとの総額予算制で
運営され、前年度の活動実績をもとに策定した予算計画を地方病院庁が審査した上で予算が決定されてい
た。2004 年からは、入院医療費について診断群分類にもとづく1件あたり包括支払い方式(Groupe
Hômogéne des Séjours:GHS)が導入され、徐々に拡大されているところである。また、外来医療費に
ついては、医療行為・臓器等によって分類されたコード(Classification commune des actes médicaux:
CCAM)ごとの定額支払いとなっている。
入院医療費のうち、公的医療保険でカバーされる部分については、疾病金庫から病院に直接支払われる
ため、患者は自己負担部分のみを支払い、それを補足医療保険の保険者に請求する。外来医療の場合、被
保険者は医療機関において診療費の全額を支払い、その領収証を疾病金庫に送ることにより、自己負担部
分を除いた部分の償還を公的医療保険から受ける方法(償還払い)が一般的である。自己負担部分につい
ては、補足医療保険の保険者に対して支払請求を行う。
(2)民間病院
前述の公的病院サービス参加病院以外の病院は、民間病院(clinique)と呼ばれる。民間病院において
も公的病院と同様に GHM による支払が導入されている。ただし、医師費用については、民間病院の医師
は病院の勤務医ではなく、診療ごとに受け取る医師費用を収入としているため、開業医と同様の報酬体系
となっている。
このため、患者が民間病院に入院した場合には、医師費用の部分については、外来診療と同様に償還払
いが適用される。
(3)自由開業医
医療費は、疾病金庫と医師の代表的な労働組合との間で締結される協約料金で支払われる。医師の診療
報酬は、医療職の種別および行為別の単価の指標と、各診療行為の点数を乗算して決定される。また、病
院の外来医療費で導入された CCAM による定額支払いが部分的に導入されている。
自由開業医には Sector1、Sector2、Sector3 の区分がある。Sector1 の医師は協約料金にもとづいて保
険診療を行う。Sector2 の医師は保険診療を行うが、協約料金を超える診療費を請求することができる。
Sector3 は保険診療を行わず、完全な自由診療を行う医師である。
患者が開業医で外来サービスを受けた場合、医療費の全額を一旦支払い、後に公的医療保険の給付が疾
病金庫から償還される。自己負担部分については、補足医療保険の保険者から支払われる。
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損保ジャパン総研クォータリー
(4)第三者支払制度
補足医療保険を販売する民間保険者は、疾病金庫や医療機関と連携し、公的医療保険の医療費も含めて、
患者が医療機関で医療費を直接支払うことなしに、医療機関に直接支払う仕組みを整えている場合が多い。
これを第三者支払制度と呼ぶ。第三者支払い制度の内容は、医療機関と民間保険者の契約内容によって異
なる。
共済組合の連合会である FNMF では、約 2,000 の医療機関と契約し 5、FNMF 傘下の共済組合の加入者
に対して、第三者支払い制度を提供している。
(5)医療費の支払い方法に関する事例(FNMF が運営する公的病院の事例)
病院における公的医療保険と民間医療保険の請求実務について、FNMF が運営する公的病院である
L’Institute Mutualiste Montsouris へのインタビューにもとづいて紹介する。
①入院医療の場合
同院は、FNMF が運営する公的病院であり、FNMF 傘下の共済組合と第三者支払い制度に関する契約
を結んでいる。このため、契約を結んだ共済組合の加入者が入院した場合、公的医療保険で支払われる部
分については疾病金庫に、補足医療保険で支払われる部分については共済組合に、それぞれ直接医療費を
請求する。
契約を締結していない共済組合や、一般保険会社の加入者の場合、公的医療保険で支払われる部分につ
いては疾病金庫に直接請求する。しかし、補足医療保険については、保険者ごと、契約タイプごとの給付
内容を病院側で把握することが困難であるため、公的医療保険の自己負担部分を患者から受け取り、後日、
患者から各保険者に請求してもらう形が一般的である。ただし、患者に補足医療保険の加入者カードを提
示してもらうことによって給付内容を明確に把握できる場合には、病院から直接請求する場合もある。
なお、入院時のホテルフィーに関しては、補足医療保険の保険者や契約タイプによって、公的医療保険
の自己負担額に対する給付内容や、差額ベッド等の上乗せ部分の給付内容が多彩であり、その内容を病院
側が把握することが特に困難であるため、保険者との契約の有無にかかわらず、患者から支払いを受け、
患者が後日保険者に請求する方法をとる場合が多いとのことである。
患者側の手続きとしては、計画的な入院に関しては、入院前に補足医療保険の保険者に事前申請を行い、
その際に、主治医と調査目的の連絡をとることを保険者に認める旨を明示することとなっている。補足医
療保険の契約以前からの既往症の場合、保険者に所属する医師が調査した結果、医療費の支払いが認めら
れない場合もある。救急の場合は、事前申請手続きができないため、直接医療機関を利用するが、調査、
払い戻しについては同様である。
患者に医療費が償還されるまでの期間については、保険者ごと、契約タイプごとに異なるが、保険者に
よっては、払い戻しまでの日数を明示してスピード処理をセールスポイントにしているとのことである。
②外来医療の場合
外来については、すべての診療行為が CCAM による定額報酬となっている。このうち、公的医療保険
で支払われる医療費については、直接疾病金庫に請求する。公的医療保険の償還率は、一般制度、特別制
5
FNMF 資料による。
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度といった制度ごとに異なり、医療機関にとって医療費の請求は煩雑であったが、現在では、患者が加入
している制度によって公的医療保険の償還率を判定するソフトウェアがあるため、事務負担が軽減されて
いるとのことである。
患者の自己負担部分については、第三者支払い制度の契約を締結している共済組合の場合は、共済組合
に直接請求する場合もあるが、患者から支払いを受け、患者が各自償還を受ける場合もある。これについ
ては、入院費の場合と同様である。
同院では、外来医療の場合には、契約を締結していない共済組合や一般保険会社に対して、患者の自己
負担部分を直接請求することはないとのことである。このため、AXA 等の一般保険会社に加入している患
者は、それぞれの保険会社と契約関係がある医療機関を利用する場合が多いとのことである。
Ⅲ.フランスの民間医療保険
1.フランスの民間医療保険市場の概要
(1)プレーヤー、マーケットシェア
フランスにおいて、民間医療保険(補足医療保険)を提供している保険者には、共済組合法典(Code de
la Mutualité)にもとづく共済組合(Mutualité)、社会保障法典(Code de la Sécurité Sociale)にもとづ
く相互扶助組合(les institutions de prévoyance)、保険法典(Code des Assurances)にもとづく一般保
険会社がある 6。共済組合と相互扶助組合は非営利の民間組織である。
《図表 2》のとおり、2003 年のフランスにおける民間保険市場の保険料総額は、約 1600 億ユーロで、
その内、積立・年金が 50%、損害保険が 22%、医療保険が 13%、就業不能保険が 5%、死亡保障が 5%で
あった。一般保険会社(銀行を含む)は損害保険(100%)、積立・年金(97.3%)、死亡保障(75%)、就
業不能保険(70%)においてマーケットシェアが高い。
医療保険に関しては、共済組合のマーケットシェアが 59%であり、相互扶助組合と民間保険会社はそれ
ぞれ 16%、25%である。
FNMF によると、共済組合は医療保険が収入の 80%を占めており、最も注力している商品とのことであ
る。また、相互扶助組合の場合は、医療保険が収入の 48%を占めている。一方、一般保険会社にとっては、
全体の保険料収入に占める医療保険の割合は 3.8%に過ぎない。このため、医療保険は一般保険会社の主力
商品ではなく、顧客開拓の目的で販売する商品として位置付けられている場合が多いとのことである。
6
一般の保険会社には、株式会社、相互保険会社(Mutuelle d’Assurances)等がある。
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《図表 2》2003 年におけるフランスの民間保険市場における保険種類別のシェア
積立・年金
損害保険
一般保険会社(銀行を含む)
:97.3%
一般保険会社(銀行を含む)のシェアが 100%
相互扶助組合:0.8%%
共済組合:1.9%%
医療保険
22%
一般保険会社(銀行を含む):25%
総額約1600億ユーロ
相互扶助組合:16%
共済組合:59%
50%
13%
5%
5%
死亡保険
就業不能保険
一般保険会社(銀行を含む):75%
一般保険会社(銀行を含む):70%
相互扶助組合:20%
相互扶助組合:22%
共済組合:5%
共済組合:8%
(出典)FNMF 資料
(2)民間医療保険の商品内容
前述のとおり、民間保険者が販売する補足医療保険は、公的医療保険の自己負担部分や、公的医療保険
で対象とならない差額ベッド代等をカバーしている。民間医療保険の商品内容の一例として、一般保険会
社である AXA 社の契約タイプ別の商品内容を示した《図表 3》。
商品内容は主に、協約料金に対する保険金支払上限額の倍率によって異なっている。例えば、協約料金
の 100%をカバーする「Référence1」タイプに加入し、開業医による一般医療行為を受けた場合であれば、
公的医療保険で協約料金の 70%が償還されるため、残りの 30%が民間保険の支払いとなる。
しかし、フランスでは、公的医療保険下においても、開業医や民間病院において Sector2 の医師の診療
を受けると協約料金を超える支払いになる場合があり、「Référence1」タイプでは保険金の支払額が不足
して加入者の自己負担が発生する場合がある。Référence2、Bien-Ĕtre1、Bien-Ĕtre2 といった倍率の高
いプランは、このような場合を想定したものである。
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《図表 3》Axa 社の補足的医療保険の商品内容の例(契約タイプ別)
Référence1
Référence2
Bien-Ĕtre1
Bien-Ĕtre2
協約料金 100%
協約料金 125%
協約料金 150%
協約料金 200%
一般医療行為
協約料金の 100%
協約料金の 125%
協約料金の 150%
協約料金の 200%
薬剤
協約料金の 100%
協約料金の 100%
協約料金の 100%
協約料金の 100%
+予防接種費用
+予防接種費用
+予防接種費用
+予防接種費用
協約料金の 100%
協約料金の 125%
協約料金の 150%
協約料金の 100%
+被保険者 1 名・
+被保険者 1 名・
+被保険者 1 名・
+被保険者 1 名・
年 60 ユーロ
年 100 ユーロ
年 150 ユーロ
年 200 ユーロ
眼科
+当社提携店の場合
推薦レンズ=全額、フ
レーム=130 ユーロ
契約医療機関
入院費:実費
での入院費・
診療報酬:協約料
診療報酬:協約料
金の 300%
金の 400%
診療報酬
同左
入院費:実費
同左
契約医療機関
入院費、診療報酬
入院費、診療報酬
入院費、診療報酬
入院費、診療報酬
での入院費・
とも協約料金の
とも協約料金の
とも協約料金の
とも協約料金の
100%
125%
150%
200%
日額 30 ユーロ
日額 50 ユーロ
日額 60 ユーロ
日額 75 ユーロ
診療報酬
個室使用料
歯科
(歯科治療)
(歯科治療)
(歯科治療)
(歯科治療)
協約料金の 100%
協約料金の 125%
協約料金の 150%
協約料金の 200%
(義歯)
(義歯)
(義歯)
(義歯)
協 約 料 金 の 100%
協 約 料 金 の 125%
協 約 料 金 の 150%
協 約 料 金 の 200%
+被保険者 1 名・
+被保険者 1 名・
+被保険者 1 名・
+被保険者 1 名・
年 60 ユーロ
年 100 ユーロ
年 200 ユーロ
年 300 ユーロ
(出典)Axa 社ウェブサイトの商品案内より抜粋して作成
(3)民間医療保険の加入方法
フランス保健省へのインタビューによると、補足医療保険に関しては、企業等の団体契約が 65~70%を
占めており、職域での加入が中心である。
企業は福利厚生制度として補足医療保険を従業員に提供している場合が多いが、補足医療保険の採用は
各企業の任意による。保険料負担に関しても、企業の全額負担、一部負担、負担なしの場合など、企業に
よって異なる。
小企業、零細企業、個人経営の組織などについては、従業員に補足医療保険を提供していない場合も多
い。このため、職域経由で補足医療保険に加入できない者は、個人で加入することになる。
(4)補足医療保険の引受けと収支管理
①リスクの選択に関する規制
補足医療保険の引受けにおいて、民間保険者がリスクの高い者の引受けを拒絶したり、病歴など、加入
47
損保ジャパン総研クォータリー
者に特有のリスクに応じて保険料格差を設けたりするような、リスクの選択は実質的に認められていない。
まず、共済組合については、リスクを選択することが認められていない。加入希望者に対して健康に関す
るアンケートを行うことや、職業別のリスクに応じて保険料を変えることは法的に禁止されており、これ
を行った場合には共済組合としての資格を失う。また、相互扶助組合の場合、雇用者は全ての被用者を等
しく加入させなくてはならないこととされている。
一般保険会社については、2 つの選択肢があり、リスク選択をした契約には 7%の課税、リスク選択を
しない契約には非課税となる。しかし、保健省からのインタビューによると、補足医療保険に関して病歴
アンケート等を実施している一般保険会社は現時点では存在しないとのことである。
民間医療保険が国民連帯の理念にもとづく社会保障制度の一部と考えられていることは、保険者による
リスクの選択が実質的に認められていない点にも見て取れる。
②収支の管理
FNMF から聴取したところによると、収支管理のための手段は、基本的には大数の法則によるしかない
が、できる限り若年層が多くいる企業をターゲットとして積極的に営業することは一般的に行われている
とのことである。例えば、同じ 50 歳の加入者であっても、30 歳で加入した場合と 50 歳から加入した場
合では、料金が異なっており、このようなケースはリスク選択とは見做されない。
それ以外の収支管理の方法としては、統合による規模拡大によって、経営効率を高めることが考えられ
るとのことである。
2.補足医療保険の商品内容・販売方法・収支管理に関する事例(共済組合 SMI の事例)
パリに所在する共済組合である SMI は、約 60 万人の加入者を持つ大手共済組合である。加入者の大半
は企業等の団体契約であり、個人契約は積極的には販売していない。
以下、SMI へのインタビューをもとに、同社の商品・販売方法・収支管理の方法について紹介する。
(1)商品内容
SMI では、企業マーケットを、大企業・中企業・小企業の 3 つに分けている。大企業と中企業に対して
は、複数用意された標準的な契約タイプ(スタンダード)をベースとして、顧客ごとにカスタマイズして
販売している。
具体的には、大企業・中企業の場合、個々の企業における補足医療保険に関する規定等にもとづき、オー
ダーメイドで商品を設計する。スタンダードと呼ばれる商品は 50 種類程度あり、それをカスタマイズす
ることにより、顧客企業のニーズに合わせた商品を提供している。企業ごとの給付内容における最大の違
いは、前述の AXA 社と同様、協約料金に対する保険金支払上限額の倍率である。倍率を無制限とするか、
制限(100%、200%、300%など)を設けるかによって、保険料水準に差が生じる。それ以外の主要な差異
としては、歯科治療、眼鏡、補聴器などを利用した場合の給付内容が挙げられる。
小企業には、給付内容によって 3 つの契約タイプを用意し、そこから顧客が選択して加入する方法となっ
ている。これについては、個人についてもほぼ同様とのことである。
(2)販売方法
SMI では、社員が直接販売する方法をとっており、代理店やブローカー経由での販売は行っていない。
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SMI 社によると、共済組合の場合、通常はこの形態をとっているとのことである。
大企業については、営業開発部門のディレクター・クラスの者が営業を担当し、中小企業については、
営業担当社員に地理的に担当が配分されている。営業担当者は、毎年末に担当先企業の担当者(人事・労
務部門、労組等)を訪問し、その年の収支実績を報告するとともに、翌年度の契約を結ぶ。代理店やブロー
カーのように手数料ベースでの報酬はないが、新規の大型契約を獲得した社員には特別に賞与を与える制
度がある。
営業担当社員の採用にあたっては、ある程度の営業経験を条件としている。商品知識、医療制度・社会
保障制度などについては、入社後に社内教育を行っており、特に法務についての教育プログラムを重視し
ているとのことである。
(3)収支管理
大企業・中企業向けの補足医療保険の保険料は、スタンダードの全契約における医療費支払額にもとづ
いて計算され、これに顧客企業ごとの給付内容の違いを加味して決定される。前述のとおり、共済組合は
リスクの選択を禁じられている。このため、契約タイプ・従業員数・年齢構成等の条件が同じ企業であれ
ば保険料は同じであり、業種や企業ごとの過去の損害率、加入者の既往歴といった、個々の企業や加入者
に特有のリスクに応じて保険料を変えることはできない。
また、医療費の支払額については、公的医療保険の給付対象サービスについては、補足医療保険の支払
額も自動的に決まることになる。公的医療保険の給付対象外の医療サービスについても、医療機関からの
請求にもとづいて支払われるため、保険者が医療費の支払額をコントロールすることができない。このた
め、収支管理の方法は、主に経費(人件費、物件費等)の管理と加入者増による規模の拡大によって行わ
れており、他社との差別化のために、IT の活用による効率化、医療費支払の迅速化、コールセンターの品
質向上等を図っているとのことである。
Ⅳ.近年の公的医療保険制度の動向と民間保険者の受け止め方
1.CMU の現状
前述のとおり、2000 年に施行された CMU 法によって、公的医療保険と補足医療保険に相当する保障が
得られない者は原則的にいなくなった。しかし、CMU の所得制限には満たない程度の所得層の者にとっ
て、補足医療保険の入手が困難であることが指摘されたため、2005 年には、この層に対して、所得に応じ
た保険料の補助が行われることになった。このような措置の影響により、現在では、付加的疾病給付の受
給者が約 500 万人に達している 7。
一方、受給者の増加に伴い、付加的疾病給付に関わる民間保険者の負担の増加が問題視されるようになっ
ている。民間保険者は、付加的疾病給付の財源として補足医療保険の保険料の一定割合を拠出しているが、
付加的疾病給付を引き受けた場合には、拠出金の軽減措置により、契約 1 件ごとに、受給者 1 人あたり年
間医療費に相当する定額の補助金を受け取る仕組みとなっている。制度開始当初は、拠出金の割合が 1.75%、
引受け 1 件あたりの補助金が 1,500 フラン(約 230 ユーロ)であったが、この補助金の額では採算が取れ
ない民間保険者が付加的疾病給付の取り扱いを中止するケースも出てきている。
受給者 1 人あたり年間医療費は、2006 年 1 月に 340 ユーロに見直され、補助金の額も調整されたが、
7
FNMF へのインタビューによる。
49
損保ジャパン総研クォータリー
フランス保険協会は「保険会社が医療費と管理費を賄うためには、いまだ不十分である」との見解を表明
している 8。しかも、前述の保険料補助の導入や、受給者 1 人あたり年間医療費の見直しに伴って、拠出金
の割合も 2.5%に引き上げられており、この支出も民間保険者の経営を圧迫している。
FNMF へのインタビューでは、付加的疾病給付は社会の不公平を是正することを目的としたもので、民
間保険者が利益を得るための政策ではないという立場であった。しかし、民間保険者の経営を圧迫してい
る現状について、
「これ以上、付加的疾病給付の対象者が増えると、民間の保険者は対応できない」、
「数年
後には、付加的疾病給付の受給者は増加したが、それを提供する民間保険者の数は減少した、という結果
になりかねない」との強い危惧を表わしていた。
2.2004 年医療保険改革
増大する社会保障疾病金庫の赤字に対応するため、2004 年 8 月 13 日法(loi du 13 août 2004)によっ
て、一般福祉税の増額等による医療保険財源の再建、保険者機能を強化するための医療保険組織の改革、
医療費のコントロール策の強化の 3 つを柱とした、医療保険制度の改革が行われた。
この改革は、医師や医療機関のみを対象としたものではなく、患者である国民、疾病金庫、民間保険者
等、全ての当事者を対象としている。保健省へのインタビューでは、
「 改革の骨子は患者と医療提供者のフィ
ロソフィー、態度、習慣を、根本的に変えさせることであり、医療保険組織の改革や医療費のコントロー
ル策の強化は、そのための手段である」とのことであった。以下、改革の概要について説明し、改革に対
する民間保険者の見方を紹介する。
(1)医療保険財源の再建
前述のとおり、フランスの公的医療保険制度の財源は、徐々に租税代替化が進められており、現在は一
般福祉税(CSG)の割合が 4 割近くに達している。2004 年の改革では、CSG の増額(課税率の 0.4%引き
上げ、および税額計算の基礎となる労働所得の上限を 95%から 97%へ引き上げ。23 億ユーロ)、タバコ税
の一部(10 億ユーロ)の疾病金庫への移管、企業からの社会連帯拠出金の増額(9 億ユーロ)等により、
医療保険財源を約 52 億ユーロ増額した。
(2)医療保険組織の改革
前述のとおり、フランスの公的医療保険では、被用者、農業従事者、自営業者等によって制度が分立し
ている。また、保険者である疾病金庫の組織は、国、地方、県ごとに存在し、公的医療保険者として統一
的な方針を策定することが困難な状況であった。また、民間保険が医療保障制度の中で重要な位置を占め
ており、公的制度の動向による経営上の影響が大きいにもかかわらず、民間保険者の意見が政策に反映さ
れにくい点も問題であった。2004 年の改革では、これらの問題を解決し、保険者の機能を強化するための
組織改革が行われた。その概要は以下のとおりである。
①公的医療保険者の組織改革
一般制度、自営業者を対象とする制度、農業従事者を対象とする制度の、それぞれの全国組織の上部組
織として、疾病金庫全国連合(UNCAM)が新たに創設され、制度間の調整、後述する UNOCAM との連
8
FFSA “French Insurance in 2005”,p.24.
50
2006.12. Vol. 46
携、医療提供者等との交渉、公的医療保険者の立場からの政策提言等の役割を担うこととなった。
また、被用者保険(一般制度)の保険者の全国組織である CNAMTS は、従来は労使同数の理事で構成
される理事会によって運営されていたが、理事会による運営が十分機能していないことから、経営者団体
(Mouvement des Entreprises de France:MEDEF)が理事会から脱退するなど、運営に問題を抱えて
いた。2004 年改革では、CNAMTS の統括を事務総長(Directeur général)が行うこととなり、地方と県
の疾病金庫の運営について強い権限が与えられた。
②民間保険者の全国組織の創設
補足医療保険を提供する民間保険者の全国組織として、全国補足医療保険者連合(Union Nationale des
Organsmes d’Assurance Maladie Complémentaire:UNOCAM)が創設された。UNOCAM は、補足医
療保険者間の連携・調整、UNCAM と連携した医療提供者等との交渉、民間保険者の立場からの政策提言
等の役割を担う。UNOCAM の構成員は共済組合の連合会である FNMF、営利保険会社の団体である FFSA、
相互扶助組合等から選出されており、議長は FNMF の会長が務めている。
③医療サービスを評価する諮問機関の創設
保険者機能の強化とは直接関係する組織ではないが、公的医療保険の給付内容について、科学的立場か
ら諮問する機関として、高等保健機構(Haute Authorite Sante:HAS)が創設された。HAS は医療サー
ビスの有効性に関して評価し、公的医療保険の償還率の妥当性や、患者自己負担が免責される特定疾病の
範囲等を検証することを主な役割としている。
(3)医療費のコントロール策
フランスの医療保障においては、被保険者による医療機関の選択が自由であり、公的医療保険と補足医
療保険の二階建ての医療保障によって、実質的に自己負担が発生しないことによって、医療サービスのコ
ストに対する被保険者の意識が低いことが課題であった。
このため、2004 年改革では、社会保障と自助努力の範囲を見直すとともに、被保険者のコスト意識を高
めるための政策が導入された。以下、その概要を紹介する。
①かかりつけ医制度の導入
被保険者がかかりつけ医を選択し、医療サービスの利用に際してかかりつけ医を利用することを被保険
者に求めるかかりつけ医制度は、過去に一部の県における実験的な取り組みとして行われたことがあった。
2004 年改革では、16 歳以上の全ての被保険者と被扶養者にかかりつけ医の選択を要請した。かかりつけ
医への受診は強制されてはいないが、かかりつけ医の紹介状なしに他の医療サービスを利用した場合には、
公的医療保険の自己負担額が増額され、この部分は補足医療保険でも自由にカバーできないこととされた。
前述の、リスク選択に関する規制と同様に、共済組合に関しては、かかりつけ医を経由しないで利用した
医療費の増額分をカバーする補足医療保険を販売することが禁止され、一般の保険会社の場合は保険料に
対する課税(保険料の 7%)がなされる。相互扶助組合については、補足医療保険の拠出金における企業
負担分を被用者に対する給与とみなし、それに対して 7%課税することによって実質的に規制されている。
このように、2004 年改革で導入されたかかりつけ医制度は、被保険者、民間医療保険者に対して、かか
りつけ医の利用を促進するための強いインセンティブが与えられている。また、かかりつけ医となる一般
51
損保ジャパン総研クォータリー
開業医に対するインセンティブとして、患者がかかりつけ医にかかった場合には診療費が増額されること
とされている。
②患者カードの導入
医療サービスの重複による医療費の無駄や健康への悪影響を避けるため、患者の診療情報を記録・蓄積
する患者カードシステムが導入された。診療情報は公的なデータベースに蓄積され、患者カードと医療職
が持つカードを同時に挿入することにより、アクセスできるようになっている 9。
③公的医療保険の給付の見直し
従来からの自己負担額に加え、2005 年 1 月以降は、一般医、専門医の診察を受ける時、病院外来での
救急診療時、検査を受ける場合など、医療サービスを利用するごとに 1 ユーロの定額自己負担を支払うこ
とになった(ただし、入院医療費、普遍的疾病給付の受給者等については適用されない)。この自己負担に
ついては、補足医療保険でもカバーしないこととされており、規制の方法はかかりつけ医制度の場合と同
様である。
また、これ以外の見直しとしては、入院費の日額自己負担の増額、自己負担が免除される特定疾患の範
囲の縮小、有効性が低い薬剤への償還率の低下等が行われた。
(4)民間保険者の受け止め方
FNMF へのインタビューでは、2004 年改革について概ね肯定的に捉えていたが、部分的に否定的な意
見が聞かれた。
まず、医療保険組織の改革については、UNOCAM ができた事によって、民間保険者としての立場から、
医療保険政策について発言する機会が得られたことについて FNMF は歓迎している。ただし、その後の
発言機会において、実際に民間保険者の意見が政策に反映されているか、という点では不満が大きいとの
ことであった。これについては、公的医療保険の給付の見直しに関する不満と絡んで、具体的な事例が挙
げられた。
例えば、2005 年 9 月に、新たな患者自己負担として、91 ユーロ以上の高額な医療費がかかった場合に
一律 18 ユーロを自己負担することが決定され、この部分を補足医療保険がカバーできることとされた。
高額な医療とは、すなわち重要な医療であり、これを補足医療保険がカバーしなければ、医療へのアクセ
スの公平性が崩れ、国民の中で医療にかかれない層を生むことが危惧された結果である。これに対して、
UNOCAM としては、公的医療保険から民間医療保険へのコストの移転であるとして、断固反対の立場を
表明していたが、結局聞き入れられなかったとのことである。これにより、民間保険者は 3%から 6%の
保険料値上げを余儀なくされたが、民間保険者の経営への影響に関して、政府が関与しないようにしてい
るとの不信感を持っている。
3.おわりに
CMU の付加的疾病給付が導入・拡大され、2004 年改革において公的医療保険の給付範囲が見直された
9
松田晋哉「フランスにおける最近の医療制度改革
年 10 月 21 日)
Blazzy Plan について」
( 社会保険旬報 No.2259、2005
52
2006.12. Vol. 46
ことに伴って、近年、民間医療保険の加入者や給付の範囲が広がり、医療保障制度全体における民間保険
者の役割が大きくなっている。しかし、このような変化について、民間保険者が市場の拡大として捉える
よりは、公的部門から民間部門へのコストの移転と捉えている点が特徴的であった。
これまで述べてきたとおり、フランスの医療保障制度は公的医療保険と民間医療保険の二階建ての制度
という性格が強いため、今後も、公的医療保険の改革の動向が、民間保険市場の動向を左右する主要な要
因となると考えられる。
<参照文献等>
・ジャン=クロード・バルビエ、ブルーノ・テレ著、中原隆幸、宇仁宏幸、神田修悦、須田文明訳「フラ
ンスの社会保障システム-社会保護の生成と発展」(ナカニシヤ出版、2006 年)
・医療経済研究機構「フランス医療関連データ集 2005 年版」(2006 年)
・ 松田晋哉「フランスにおける最近の医療制度改革
Blazzy Plan について」
( 社会保険旬報 No.2259、2005
年 10 月 21 日)
・奥田七峰子氏ウェブサイト<http://naoko.okuda.free.fr/>
・伊奈川秀和「フランスに学ぶ社会保障改革」(中央法規出版、2000 年)
・藤井良治、塩野谷祐一編「先進諸国の社会保障 6
フランス」(東京大学出版会、1999 年)
・Fédération française des sociétés d’assurances “French Insurance in 2005”
・Fédération française des sociétés d’assurances “French Insurance in 2004”
・Fédération française des sociétés d’assurances “French Insurance in 2003”
・Fédération française des sociétés d’assurances “French Insurance in 2002”
・Fédération française des sociétés d’assurances “French Insurance in 2001”
・La Documentation Française “LA SÉCURITÉ SOCIALE: DES ORIGINES Á NOS JOURS, Exposition
commemorative de la creation de la Sécurité sociale”,2005.
・Agence pour le Développement et la Coodination des Relations Internationales “La protection Sociale
en France”,2003.
・European Commission, “Evolution of social protection in the European Member States and the
European Economic Area”, Directorate-General for Employment and Social Affairs Unit EMPL/E.2
<http://europa.eu.int/comm/employment_social/publications/2001/keaa01002_en.pdf>
53
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