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安政二年十月二日 大地震並出火場所方角巨細 - 日本損害保険協会

エンベッド
安政二年十月二日
お お じしん な らび に しゅっか ば しょほ うが くこさい
大地震並出火場所方角巨細
安政江戸地震の時に出版された大判彩色のかわ
ろうか。現在では、江戸に住んでいた武士の数全
ら版。普通刊行されている江戸図を右へ9
0
度ほど
体は正確にはわからない。江戸時代においても江
振って描き、江戸の大変を知らせる工夫が凝らさ
戸住人の正確な数はわからなかったと思われる。
れている。「千早振神のしずめし二荒山(ふたら
理由は、身分制社会の時代には、武士、町人はそ
さん)ふたたびとだに御代はうごかじ」と刻する。
れぞれ管轄される組織が異なっていて、全体をひ
これはもちろん、古今集「千早振神代も聞かず竜
とつの社会として認識するという枠組みがなかっ
田川から紅に水くくるとは」のもじりである。「千
たし、その必要もなかったからである。
早振」は神に掛かる枕詞で荒々しいの意があるか
というわけで、事実に即した数値そのものを社
ら、その連想から「二荒山」、二荒神社のある宇
会が共有する時代ではなかったから、正確な数値
都宮城下は戸田因幡守忠明支配だから、とわに→
に関する感覚は上にも下にもなかったといってよ
「とだに」となるのだろう。荒れる江戸を鎮めて、
いだろう。今日的な感覚から言えば、信用しがた
とわに安泰の意味を含ませる。あまり、ぴったり
い内容ということになるが、そう考えてはこうし
としない連想の環ではあるが。要するに、もはや
たかわら版の面白さや社会的役割を見過ごすこと
二度と地震で世の中がひっくり返ることはないだ
になる。この針小棒大な数値こそ、江戸時代の人
ろうという祈りが込められているのである。
がイメージしていた巨大都市江戸の姿なのである。
さて、本文「
上野ご山内上野御山内ハ宿坊少し
そして、地震の被害の大きさを世の中に伝えよう
崩れ同本坊中堂其外恙なし/同門前丁いたミ多く
とした数値であった。
広小路中程より出火上野町より長者町/至り伊藤
「即時御公儀様より/御救御手当被下/かほどの
松坂角より御成道井上様小笠様御中屋敷/御類焼
大変に/あふ人々かつして/死すもの一人も/な
ニて此火中御かち丁にてやけ留る・・・」と始ま
くまことにまことに/ありがたき御代/といふべ
る被害箇所の書上は延々と同じ調子で続く。江戸
し/めでたしめでたしめでたし」こうした大変に
市中の建物その他の被害についてはそれなりの信
対してすぐに幕府から支援策が講じられたから、
憑性を持っていると推定される。
誰も食事に事欠き、飢えて死ぬようなことはなか
江戸市中の被害に続けて、「東海道ハ品川ゆる
ったと記して終りとなる。
し/川さき神奈川つよくふるひ金沢/江の島浦賀
この結句もまた、江戸時代の出版業の不安定さ
辺程か谷戸塚ハ甚しく/小田原辺をかきり也日光
を表わすものである。かわら版には政治を批判す
道中ハ宇都宮限り・・・」と江戸周辺の被害を伝
るような表現を探そうとしても見つからない。な
え、最後に「町数五千三百七十余丁崩/御屋敷二
ぜか。無届出版のかわら版とても、版木の没収、
万四千/六百三十四軒也/寺院ハ/一万六千二ケ
破砕という厳しい統制を受ける恐れが多分にあっ
寺/土蔵ハ/焼失之分/六千八百戸前/崩る分/
たから、必ずこうした当代の政治を称える言葉を
七億二万/六千三十/八なり/」とかなり針小棒
付け加えることが商売を続ける上で知恵だった。
大な被害数値を上げるが、これはほとんど実際の
にもかかわらず、安政江戸地震の時には大量に出
数の5∼6倍以上。犠牲者の数値に至っては「男
回った鯰絵が世の中を不穏にする恐れがあるとし
女/死人之分/十万/九千/七百/三十/余人也」
て、出版禁止、版木没収となった。その数、3
8
0
と1
0
倍以上の死者の数を上げる。
に上ったと記録されている。
なぜ、こうした事実に即さない数値が出るのだ
北原 糸子(神奈川大学 非常勤講師)
2006 靜陨躞闱 227
荩荭荥荎苉苠賵苆襥
魅惑の輝きのダイヤモンドも、バーベキューの木炭も、炭素でで
きている。炭素原子の結合のしかたに違いがあるだけだ。それに加
えて、ニューフェイスが登場した。
1985 年に炭素原子 60 個がサッカーボール状に結びついたフラー
レン、1991 年には炭素原子のシートを丸めて筒状にしたようなカー
ボンナノチューブ。カーボンナノチューブの変形で、円錐状をした
カーボンナノホーンもある。さらにナノフォームという新しいタイ
プの報告もある。炭素原子は新材料の宝庫だ。
カーボンナノチューブの見た目は、ススと変わらないが、円筒形
のでき方しだいで「変種」があって、それぞれに物理的特性が違う。
特に電気的な性質が、金属だったり半導体だったりする。集積回路
や燃料電池などへの応用に、大きな期待が集まっている。
カーボンナノチューブは、
「ナノ材料」の一例に過ぎない。ナノ
は 10 億分の1の意味だが、
ナノ材料は大きさ 100 ナノメートル以下、
陨跐貾
つまり1ミリの1万分の1以下のサイズである。いずれにせよ、自
然界には存在しない極微の材料である。
ナノ材料に大きな可能性があることに異論はない。とはいえ、自
然界にない点が重要だ。人間をはじめ生き物が、進化の過程で経験
したことのないということでもある。カーボンナノチューブ類は、
アスベストに似ているという指摘もある。とにかく信頼できるデー
タがまだないから、何ともいえないのが現状だ。
産業技術総合研究所が5年間に 20 億円かけて安全性評価のプロ
ジェクトを行うという。どちらかといえば、
「破れたら縫う」こと
の多いこの国で、事前に検討するのはけっこうなことである。
ただ、世論対策であっては困る。事前評価計画の理由に、
「遺伝
子組み換え作物の失敗を繰り返さないように」というのはヘンである。
ナノ材料の健康、安全、環境への影響の程度、そして不明な点は
どこか。これまでの法制度で間に合うのか、それとも新しい規制が
必要かどうか。ナノ材料だけではなく、ナノテクノロジー全体が及
ぼす社会的、倫理的意味は何か。
それらを明らかにしなければ 「 失敗を繰り返す 」 ことになる。
こ い で ご ろ う
小出 五郎
科学ジャーナリスト/本誌編集委員
5
2006 靜陨躞闱 227
腵躖賌詷腶苌镋靶邫
こ ま つ ば ら あきのり
小松原 明哲
早稲田大学理工学術院 教授
称類似、という問題にはめ込まれた、という
べきであり、その看護師を処罰したところで、
場所を変え時を変え、同じ事故が再び起きて
しまうだろう。では、名称類似薬剤を発売し
た企業、さらには、認可した行政判断が 「 真
の原因 」 だろうか。このようなことも重要な
問題ではあろうが、しかしこれをもって「真
腵遞苌貴裶腶苌軴钛
の原因」というのも、何かしっくりこない。
遺憾ながら、毎日どこかで事故が起こり、
建築強度計算偽造事件(2005)も同様であ
人が傷つき、尊い命が失われている。
る。仮に地震で建物が倒壊し、死傷者がでた
事故が起こると、多くの場合、「 真の原因 」
とする。ではこの事故の真の原因とは何だろ
を求めて、調査がなされる。
う。偽造した建築士、建築士に圧力をかけた
事故原因が未知の自然や技術的事象である
といわれる発注者、また不審に思いながらも
のなら、
「真の原因」は一つにたどり着きや
図面通りに施工した工事業者。規制緩和の中
すく、また、それを明らかとすることは再発
での建築確認のあり方という行政の問題。さ
防止に直結させやすい。航空機事故でいえば、
らには日本の安全文化。いろいろなことが指
晴天乱気流やダウンバースト、金属疲労によ
摘されようが、何か一つの「真の原因」に絞
るかつての事故がそれである。
りきれるということではない。あえて事故の
一方、事象が複合して生じる事故、中でも
原因を一つに求めれば、鉄筋量が少ない、と
人間(ヒューマンファクター)が関わってい
いう事実であるが、これが「真の原因」とい
る事故では、
「真の原因」にたどり着けない
われても誰も納得はしないだろう。
ことも多い。
これら、ある一つの事象にのみ原因を帰せ
例えば名称が類似した医薬品の取り間違い
られない事故が、最近増えているのではない
事故を考えてみる。このような事故で死者が
だろうか。このような事故において再発防止
でた場合、
「真の原因は名称が似ていたこと
を考えるときには、真の原因を求めることに
だ」といわれても、誰も納得するまい。では
拘泥するのではなく、教訓をいかに多く引き
取り間違いをした看護師の不注意が「真の原
出すか、という視点での事故調査が行われな
因」だろうか。確かに careful であれば防ぎ
くてはならないのではないか。しかし、この
えたかもしれないが、しかしこれを「真の原
ような観点から事故に迫る調査機関も、その
因」といってよいのだろうか。看護師は、名
調査手法も、まだまだ十分ではないのも事実
6
2006 靜陨躞闱 227
芸芢苐苂
である。
腵裢醰苌躋鍟腶
これら全体が、被害者や遺族の事故調査
ニーズといえるだろう。このニーズが満たさ
警察や監督官庁としての行政機関、また航
れることを通じて、被害者や遺族の感情は慰
空・鉄道事故調査委員会、海難審判庁など、法
撫されていくものと思う。しかし、このニー
的裏づけのもとに事故原因の調査を行う組織
ズと、捜査や行政機関の調査ニーズとの間に
は多い。これらの機関は、それぞれの設置目
はずれがある。とりわけ、最愛の人はその日、
的の範囲で調査がなされる。裏返すと、目的
どのように行動をし、事故に巻き込まれて
に沿わない調査はなされない。これは当然の
いったのか、ということについては、どこも
ことである。しかしその結果、事故調査の遺
応えてはくれない。
族ニーズに応えられない場合がでてくる。
いつどこで自分や家族がどのような事故、
事故に巻き込まれた被害者、遺族の望むこ
事件に巻き込まれるかわからない現代を考え
ととして、
「支援」
「経過究明」
「将来に向けて
たとき、被害者の立場からの事故調査の位置
の安全確保」の3つの重要性が指摘されてい
づけが考えられなくてはならないのではない
る(柳田 2005)
。
か。犯罪事件については、犯罪被害者等基本
蹸覇:事故のショックに対する精神的サポー
法が制定され、糸口がついたが、事故につい
ト及び、事故による直接的損害と、その後の
ても同じではないだろうか。
生計に対する経済的サポート。法的、同義的
腵躖賌詷腶
な責めを負うべき者が明らかとなり、謝罪が
安全対策という言い方があるが、これは事
なされることも含まれる。
故が日常、多発していた時代の言い方であっ
豯觟苌讆难:事故が生じるに至った事実経
て、事故が起こらなくなってきた場合には、
過と、最愛の人は、その日はどのように行動し、
目に見えない危険事象に対する手当てという
最後の瞬間はまさにどうであったのかという
視点から、危険対策というべきではないかと
両者を合わせての、被害者が事故に遭遇する
思う。さらにはそれでも生じた事故について、
までの全体経過が明らかとなること。
被害者、遺族の視点も含めて、事故調査の社
腀辫鞈苉購芯苄苌裀酓詭闛:
“事故を風化させ
会的意義を再確認し、事故調査や危険調査の
てはいけない”
“二度と同じ事故を繰り返さな
方法論、中でもヒューマンファクターの関わ
いでほしい”という気持ちへの具体化、つま
る、一つの真の原因の存在しない事故を取り
り再発防止への具体的行動。事故保存と社会
扱っていくためには、
「事故」を基点に置いた
への伝達ということも重要課題として含まれ
「事故学」ということを考えなくてはならない
る。
のではないだろうか。
7
2006 予防時報 227
トリインフルエンザの現状と対策
― 高病原性新型インフルエンザの予感 ―
*
後藤 W. 牧人
1.はじめに
てトリインフルエンザに起因しており、この「新
2003 年末頃から、新聞や雑誌などで、高病原
クを起こす危険性を孕んでいる。
型インフルエンザ」も、大きな確率でパンデミッ
性トリインフルエンザが家禽(かきん)の集団
で発生し、さらに死者まで発生していることが
度々報じられている。鳥のインフルエンザが、
なぜマスコミでこれほど取り上げられるかとい
うと、それが単に野鳥や家禽の病気で終わらず
に、ヒトに対して強毒性のあるインフルエンザ
が、世界規模で大流行する前兆と見られている
からである。
報告者は、医学部で熱帯病・感染症・人獣共
通感染症などを専門とし、何年間も東南アジア、
ヨーロッパ、アフリカで研究と教育に従事して
きている。ここでは今後のトリインフルエンザ
について世界レベルで考えられているシナリオ
について報告する。
日本ではインフルエンザと聞くと、軽い病気
の印象であるが、トリインフルエンザが新型イ
ンフルエンザに変化し、世界的レベルで多くの
ヒトを死なせ、世界経済に大打撃を与えること
が予測されている。そこで、世界中の国々から
統計や資料が集まる世界保健機関(WHO)の資
料を中心に、トリインフルエンザの脅威とは一
体何なのか整理し、読みやすくするために問答
2)
「新型インフルエンザ」パンデミックがなぜ
問題なのか?
パンデミックになると、国連の最悪のシナリ
オでは、死者数は全世界で最大 1 億 5,000 万人、
研究者によって1億 8,000 万人から 3 億 6,000 万
人との計算もある。日本では、厚生労働省が、
発 症 25%、 死 亡 17 ∼ 64 万 人( 人 口 1 億 3,000
万人中)と見積もっている。一方で、オースト
ラリアのローウィー研究所では、日本での死者
数を 210 万人と予測しており、さらにスペイン
風邪と同じようなシナリオなら 520 万∼ 1,040 万
人としている。
(1918 年に発生したスペイン風邪
では、発症 42%、人口 5,500 万人中死亡 45 万人。
)
さらに経済的影響の予測としては、世界銀行
や WHO が、
最初の一年で世界 GDP の 1% ∼ 3.1%
(8,000 億ドル∼ 25 兆ドル)の損失と見積もって
いる。またアメリカの損失については、米国国
家安全保障会議が 6,380 億ドル、日本の損失につ
いては第一生命経済研究所が最大で国内 GDP の
4.1%(20 兆円)
、オーストラリアの損失につい
ては農業資源経済局が 6.1%(30 兆円)と予測し
形式でまとめた。
ている。世界第一、第二の経済大国がこのよう
2.トリインフルエンザとはなにか?
大混乱となってしまう。
1)なぜ今トリインフルエンザか?
3)トリインフルエンザとは何か?
トリインフルエンザが、人獣共通感染症であ
り、地球規模でヒトからヒトへ伝播するパンデ
ミック(pandemic:世界的大流行)の兆候だか
なダメージを受けると、それだけで世界経済は
トリインフルエンザ(鳥インフルエンザ、家
禽ペスト、Avian Influenza、Avian Flu)とは、
インフルエンザ・ウイルス(AI ウイルス)の感
らである。過去の新型インフルエンザは、すべ
染による家禽類を含む鳥類の疾病である。ニワ
*ごとう W. まきと/コミールグループ CEO 毒」病原性タイプと「強毒」病原性タイプであ
8
トリでは病勢から 2 つの型に分類される。
「弱
2006 予防時報 227
る。
「弱毒」
のものは、
ニワトリに対し低死亡率で、
の群れに持ち込むと、そのウイルスはその群れ
日本国内においては 1996 年 9 月と 12 月に疑わ
の中で高病原性のタイプに変化すると考えられ
しい事例が発生したが、ウイルスの分離(確認)
ている。まれにあるが、渡り鳥からも高病原性
はできなかった。
「強毒」タイプは、ニワトリに
H5N1 ウイルスが分離されているため、渡り鳥
対し高死亡率で「家禽ペスト」
(Fowl Plague)
もこのウイルスを直接広めているのではないか
と呼ばれ、法定伝染病に指定されている。日本
と疑われている。
国内では 2004 年 1 月 12 日に、79 年ぶりにトリ
実際、渡り鳥のコースとして、東南アジア、
インフルエンザの発生が山口県で確認された。
日本、シベリア、ヨーロッパへのコースと、東
南アジア、日本、シベリア、アリューシャン列島、
4)何がトリインフルエンザを起こすか?
アラスカ、アメリカへのコースが確認されてい
インフルエンザを起こしているウイルスには、
る。そのため、今後は H5N1 ウイルスの新しい
A 型、B 型、C 型がある。A 型インフルエンザ
地域へのさらなる広がりが予想されている。
には H1 から H16 まで 16 の亜型(サブタイプ)
があるが、自然界では渡り鳥や水鳥に感染し症
状なく保たれている(リザーバー:自然貯蔵庫)
。
6)トリインフルエンザの大発生はどの国の家
禽の中で起きているか?
これらは弱毒型と呼ばれ、ニワトリが感染して
2003 年 12 月半ばから 2004 年 2 月初め、H5N1
も格別の症状は表れない。
ウイルスによる家禽でのトリインフルエンザの
しかし、A 型のうちの H5 と H7 は強毒性であ
大発生が、アジアの 8 カ国で報告された。韓国・
り、ニワトリで全身感染を起こし一日か二日で
ベトナム・日本・タイ・カンボジア・ラオス・
死なす。これが「高病原性トリインフルエンザ・
インドネシア、
および中国である。この 8 カ国は、
ウイルス」であり、その破壊的な性質のために
これまでは高病原性トリインフルエンザの発生
以前は「家禽ペスト」と呼ばれ、昔から養鶏業
を経験したことがなかった。2004 年 8 月初めに、
に大打撃を与えて来ている。
マレーシアがアジアで 9 番目の国となり、家禽
ところで、H5 と H7 のすべてのウイルスが、
内での H5N1 の最初の発生を報告した。
常に高病原性であるわけではない。H5 と H7 ウ
ロシアは 2005 年 7 月末、家禽内での最初の
イルスの低病原性のものは、野鳥や渡り鳥から
H5N1 発生を報告した。8 月初めには隣のカザフ
家禽の群れに運ばれる。そのウイルスは家禽の
スタンでも報告が続き、両国で高病原性 H5N1
集団の中で循環し、通常数ヶ月以内に高病原性
による野鳥の死が確認されている。同時期にモ
に変異することができる。高病原性のウイルス
ンゴルでも、死んだ渡り鳥から H5N1 の検出が
は、養鶏業にとっても、公衆衛生学にとっても、
報告されている。2005 年 10 月には、H5N1 はト
また医学にとっても、脅威となるので、家禽の
ルコとルーマニアの家禽の中でも確認された。
感染初期時で症状が穏やかな時にさえも、家禽
東南アジアでは、約 1 億 5,000 万羽の家禽を処
内の H5 と H7 ウイルスの存在はいつも心配の源
分したが、今もインドネシア、ベトナム、カン
である。
ボジア、中国、タイ、ラオスに部分的に存在し
ていると考えられ、家禽の中の病気の制圧には、
5)渡り鳥はトリインフルエンザを広めるか?
今後数年かかると見積もられている。日本、韓
渡り鳥の役割は完全に理解されてはいないが、
国、マレーシアでは家禽での発生の抑制に成功
高病原性トリインフルエンザの伝播や拡散に関
し、現在は病気がないと考えられる。
与している可能性は大きいと考えられている。
野生の水鳥はすべてのインフルエンザ A ウイル
スのリザーバーなので、おそらく、何世紀も格
7)なぜ家禽の群れの中での発生が格別重要な
のか?
別な害を起こさずインフルエンザ・ウイルスを
2003 年半ばに南東アジアで始まった高病原性
運んでいたと思われる。低病原性の H5 と H7 の
トリインフルエンザの大発生は、歴史上最大最
ウイルスを運ぶことは以前から知られている。
悪で H5N1 ウイルスによるものである。H5N1
渡り鳥が低病原性の H5 と H7 ウイルスを家禽
はヒトにも感染するが、その H5N1 が家禽の集
9
2006 予防時報 227
団の中で増えると、その分だけヒトへの感染リ
異的(特定の種類の生物を好む)であり、別種
スクが増大する。
であるヒトには本来感染しないが、まれに種の
過去にこの病気が多くの国を同時に襲ったこ
壁を越えヒトにも感染する。今まで 200 名を超
とも、多くの家禽が感染した経験もないが、こ
えるヒトの発症があるが、感染した莫大な鳥の
の事実はヒトへの感染力を持つ H5N1 がそれだ
数と比較すれば、ヒトの感染者数は少ない。こ
け多く存在し、それだけ家禽の集団内での変異
のことは、トリからヒトへは容易に伝播しない
の確率が高まり、ヒトへ感染するサブタイプ発
ことを示す。
生の危険が増すことを意味する。
また、同じ環境下でトリインフルエンザ・ウ
イルスに暴露していても、感染するヒトとしな
3.ヒトの健康への影響は何か?
いヒトがいるが、その理由は分かっていない。
1)どの国でヒトの感染と発病は起きたか?
4)どのように人々の間で感染するか?
検査確認分だが、今までヒトのインフルエン
ザの症例報告があるのは、アゼルバイジャン、
カンボジア、中国、ジブチ、エジプト、インド
ネシア、イラク、タイ、トルコ、およびベトナ
ムの 10 カ国である。香港は過去に 2 つの発生を
経験している。1997 年に、H5N1 でヒトが感染
した最初の記録例では、18 人の人々が感染し 6
人が死亡した。2003 年初頭香港で、中国南部に
旅行者が 2 人感染し 1 人が死亡した。2006 年 6
月現在の WHO の報告では、世界中で 232 人感
染し 134 人死亡している。今後も感染者数と死
亡者が増えることは明らかである。
ヒトの感染者はまだ少ないとは言え増えてい
るということは、トリの集団内での伝播が一層
増えていることをも示す。これがいつの日か家
禽の集団内で、ヒトに感染する新しいサブタイ
プが出現する可能性が高くなっていることを示
唆する。
この感染力の強い新しいサブタイプは、おそ
らく今問題になっている H5N1 サブタイプでは
ないと考えられるが、その強毒性の新サブタイ
プもまずトリからヒトへ感染し、今度はヒトか
らヒトへの広範な伝播となってゆくものと考え
られている。ここにパンデミックへとつながる
危険性があるのである。
2)トリインフルエンザはどのようにヒトに感
染するか?
ヒトの感染の主要なルートは、家禽の排泄物
で汚染されたものや、感染した鳥肉などとの直
接的な接触と考えられる。ヒトの感染症例の発
生は農村または都市周辺部地域に多く、そこで
は多くの家族が小集団の家禽を飼い、家禽が時々
家に入り、子供が遊ぶ場所を共有している。感
染ニワトリは自由に歩き回り、ウイルスを排泄
物に落とし、ヒトはその糞で汚染された環境に
日常曝されている。
またアジアでは多くの人々が収入と食物を家
禽に頼っており、病気の兆候が鳥の集団に表れ
ると、その病気の鳥を売るか、自分たちで処理
して食べる。鳥を殺し、羽をむしり、肉を料理
するが、この過程でトリインフルエンザ・ウイ
5)ヒトからヒトへの感染に特別の意味がある
のはなぜか?
H5N1 は家禽の集団から供給されているが、ヒ
トからヒトへの伝播力は小さいので、ヒトの集
団では大発生となっていない。しかし、アジア
の大部分ではすでに存在する H5N1 によって、
もっとヒトの感染者が増えるであろうと考えら
れている。さらに、H5N1 よりもヒトからヒトへ
伝播しやすいトリインフルエンザ・ウイルスが
一度発生すれば、それは爆発的にヒトの集団で
感染者を増やすことになる。
トリの集団内でウイルスの伝播や循環が多く
なればなるほど、ヒトへの伝播力が強いウイル
スが発生する機会が多くなる。このことは、今
後の重大なパンデミックを予感させる。ヒトか
ルスへの暴露の危険が大きい。
らヒトへの伝播が頻繁に起こるようになれば、
3)トリからヒトに容易に広がるか?
伝播で、それが新しい地域に拡大する。
トリインフルエンザ・ウイルスは非常に種特
10
今度は家禽の集団と野鳥と渡り鳥のウイルスの
次のパンデミックの時期や深刻さも簡単には
2006 予防時報 227
予測できないが、パンデミックが起こるという
れが持続し拡大してゆく。
危険性は増大している。このようなキラー・イ
現在、H5N1 ウイルスはすでに、最初の 2 つ
ンフルエンザ(殺し屋インフルエンザ)は、も
の条件を十分に満たしている。
はやインフルエンザとは言えず、新しい名前が
H5N1 ウイルスは一度も人々の間で広く循環
つけられることになろう。
したことがないような新しいウイルス・サブタ
イ プ で あ り、200 人 を 超 え る ヒ ト を 感 染 さ せ、
6)ヒトではどのような症状を起こすのか?
感染者の半分以上を殺している。H5N1 のよう
H5N1 感染患者の特徴として、小児・若年者に
な強毒性ウイルスが出現した時、誰も免疫を持っ
患者の発生が多いこと、重症例・死亡例が多い
ていないので、パンデミックとなってしまう。
ことがあげられる。飛沫感染が主な感染ルート
トリインフルエンザ・ウイルスが、鳥の集団内
で、経口感染(鶏肉・家禽の糞)もあるが、空
で循環し続ける限り、変異で新しいサブタイプ
気感染はないと考えられている。
が発生する機会は持続する。
潜伏期間は平均 3 日で、
臨床症状は、
高熱・出血・
多臓器不全などの全身症状、肺炎・血痰・呼吸
2)なぜパンデミックは恐れられているか?
困難など呼吸器症状、腹痛・下痢などの消化器
パンデミックは、多くの国の人々が急速に感
症状などがあり、インフルエンザのイメージと
染する大事件である。パンデミックは、新型ウ
全く異なり、死亡率は 50%を超えている。この
イルスによって一度広がり始めたら、咳やくしゃ
死亡率の高さは、エボラ出血熱、マールブルグ
みで急速に広がり、もはや止められないと考え
出血熱、ラッサ熱に匹敵するものである。普通
られる。
の季節的なインフルエンザ(ほとんどのヒトで
感染者が、症状が出る前に航空機で移動し、
は穏やかな呼吸症状だけ)と違って、H5N1 のイ
ウイルスをばら撒くという事実は、世界的な拡
ンフルエンザは、急速な悪化と高い死亡率が特
散のリスクを増す。死者数は重症の程度による
徴である。
ので前もって分からないが、感染者数は過去の
パンデミックから総人口の 25 ∼ 35% と見積も
7)鳥肉と家禽の食品類は安全か?
られている。新しいウイルスが軽い病気を起こ
日本などトリインフルエンザがない地域では、
すならば、1957 年のパンデミックの経験から、
鶏肉の扱いは普通どおりで良い。大発生を経験
世界中で約 200 万人から 740 万人の死者が出る
している地域では適切に調理されれば安全であ
と見積もられている。
る。H5N1 ウイルスは熱に敏感であるため、調
しかし、より毒性の高いウイルスなら、予想
理の普通の温度でウイルスは殺される。生卵は
数はずっと多く、パンデミックでは公共医療サー
そのままでは危険であるが熱処理で安全となる。
ビスを受ける人々が急に増えるために、医療機
処理された鶏肉類も安全である。生の家禽また
関の機能が果たせないのではないかと危惧され
は生の家禽の食品類を扱うヒトは、お湯と石け
ている。医療、
交通、
および通信などの必須のサー
んで手を洗い消毒することで十分である。
ビスに従事するものが罹患すると、社会活動が
機能しなくなり、被害はさらに増える可能性が
4.パンデミックの可能性と影響は?
ある。
1)パンデミックのリスクはどうか?
3)H5N1 がどのようにしてパンデミックウイ
専門家は非常に高いと考えている。下記の3
つの条件が満たされた時、パンデミックが始ま
ると考えられている。
①新しいインフルエンザ・ウイルスのサブタイ
プが出現する。
②それがヒトに感染し、重い病気を起こす。
③続いて、今度はヒトの間で容易に感染し、そ
ルスになるか?
インフルエンザ・ウイルスは、本来変わりや
すい性質(変異しやすい)を持っている。複製
で増えてゆく時に同じものができずに変異を起
こしやすい(突然変異)
。これは通常小さな変
化であり、それほど前のものと変わっておらず、
マイナーチェンジ(連続高原変異)と呼ばれる。
11
2006 予防時報 227
しかし、
大きなモデルチェンジ(不連続高原変異)
的理由・医療レベル・インフラ不足などで、40
をすることもあり、その場合全く別の H や N の
カ国以外は準備不足である。
遺伝子を持った全く新しいウイルスが出現する。
マイナーチェンジではヒトの防御体制も前の免
疫である程度役立つが、モデルチェンジしたも
3)ワクチン開発と生産の現状はどうなってい
るか?
のには全く無防備で、すべてのヒトが感染する
開発から生産まで数カ月から 6 カ月かかるが、
と言ってよい。多くは悲劇的な結果となる。こ
これが可能なのは、世界でも 10 カ国しかない。
れが「新型インフルエンザ」である。
パンデミックのウイルスに対しては、発生が起
きないと開発できないので、ワクチンはまだ入
4)ほかに何か懸念事項があるか?
手できない。季節のインフルエンザのためのワ
まず、アヒルなど現在何の病気の兆候も示さ
クチンは毎年生産されるが、パンデミックのイ
ず大量の高病原のウイルスを排出し、ウイルス
ンフルエンザに対しては無効であろう。
の「静かな」貯蔵所として、他の鳥に伝播を続
H5N1 ウイルスに対するワクチンはいくつか
けている種が存在することである。
の国で開発中だが、どのワクチンも商業用生産
さらに現在の H5N1 ウイルスを実験的にマウ
の用意ができていない。またワクチン開発には、
スやフェレット ( 哺乳動物モデル ) に感染させる
高度な技術が不可欠で、幾多の実験や臨床試験
と、より致命的で長い間生き残るウイルスとな
を繰り返して行う。予防的なワクチンは経営の
ることが確認されている。H5N1 は、以前は感
面から製薬会社にとって魅了的ではないことか
染に抵抗力があると考えられた哺乳動物種にも
ら、生産には積極的ではない。
感染するようになり、その宿主の範囲を広げて
いる。これは今後監視すべき対象が、野鳥や家
4)どんな薬が入手可能か?
禽だけではすまなくなっていることを示す。中
2 つの薬、oseltamivir(Tamiflu:タミフルと
国から報告された渡り鳥の激減など、自然のリ
して商業的に知られている)
、および zanamivir
ザーバーである野生の水鳥のウイルスの性質も
(Relenza:レレンザ)が普通のインフルエンザ
変わっているかもしれない。
に効果があるが、これが H5N1 の感染者に早く
投与されれば、生存率を改善するかもしれない。
5.パンデミックへの対応は?
ただし、その臨床のデータは少ない。ウイルス
性の抵抗も報告されており油断できない。
1)パンデミックの重要な警告シグナルは何か?
ヒトからヒトへの伝播が起こっていることが
その警報である。まずこのトリインフルエンザ
の臨床症状の患者群が検出される時である。同
様の理由で、H5N1 患者を世話しているヘルス
古い抗ウイルス剤のアマンタジンとリマンタ
ジンには、抵抗が急速に発展しパンデミックへ
の有効性は制限される。現在の oseltamivir の製
造工程や製造能力から、とても足りないのが現
状である。
ワーカーの中での発生もシグナルである。
このような出来事と平行し、診断を確認の上
ソースを識別し、本当にヒトからヒトへ伝播が
起こっていることを確認すべく、フィールド調
5)パンデミックは止められるか?
誰も確信を持っていない。防止するために最
も良い方法は、ウイルスを鳥から取り除くこと
査を続けるべきである。
であるけれども、将来これが可能かは疑わしい。
2)現在人類はトリインフルエンザへの準備が
るために、危険なウイルスが出現しないように
できているか?
防御する体制はできていない。特に発展途上
国では、薬の供給能力がなく、ワクチンと抗ウ
イルス剤の製造も入手も期待できない。WHO が
準備するようにと、警告を出しているが、経済
12
最近の研究では、その国際的な広がりを抑え
する一方、パンデミック初期には抗ウイルス剤
を使用し、その間にワクチン生産の時間を稼ご
うと考えている。成功の可否は最初の被害地の
すみやかな情報収集と情報伝達システムに依存
する。
2006 予防時報 227
6.どうすれば、トリインフルエンザか
ら身を守れるか?
1)国際的な対策
WHO の戦略を中心とし、パンデミックのウ
イルスが出現しないようにする。そのためには、
早期警戒システムを整備するとともに、初期の
国際的な拡大をコントロールし、初期は抗ウイ
ルス剤で対応しながら、有効なワクチンの開発
本国内でも医療機関やインフラの機能不全、薬
剤やワクチン不足などの問題がありうるが、さ
らに旅行医学や産業医学の見地から大きな問題
がある。
海外駐在員とその家族・留学生・旅行者を誰
が守るのかという懸念である。発症患者は航空
機や公共交通機関に乗せてもらえず、医療機関
でも自国の患者が優先され、さらに言葉の問題
や医療システムの不案内もあるかもしれない。
を早めることである。
薬剤や施設が整っていない所での感染に対し、
2)国家的な対策
かもしれない。ここに情報と対応の空白地帯が
日本では新型インフルエンザ対策推進本部を
設けて、政府をあげて対応しており、一省庁の
手に負える問題ではなくなっている。
薬に関しては、不足が予想されているので、
備蓄体制を整えること、さらにワクチンについ
てはパンデミックが起きてからでないと大量生
産に取りかかれないが、日本にはその潜在能力
があることから、準備が求められる。
また、トリインフルエンザが家禽の集団で見
つかった場合、大量処分の際の養鶏場の経済的
保障を国家レベルで行うことが、家禽への違法
企業や国家レベルで対応マニュアルを作るべき
発生する。健康保険は帰国後に請求できるが、
鳥インフルエンザをカバーする旅行保険に加入
しておくことが薦められる。
また一般の保険でも、保険料(掛け金)算定
の基本的な数字が出せないために、生保・損保・
再保も十分にカバーできていない。このように
パンデミックでは、人的損失や物的損失は言う
に及ばず、インフラを含め個人の生活のあらゆ
る分野に影響が及ぶものと考えられることから、
私たち各々が国策レベル・個人レベルでもっと
関心を持つべきと思われる。
ワクチン投与や発生隠蔽を防ぐ最善の方法であ
ろう。
3)個人ができることは何か?
トリインフルエンザについて自分でももっと
よく知ることである。早寝早起き、うがい、手
洗いをするなど、規則正しい生活をすること。
主治医の日ごろのアドバイスに従うこと。さら
に、
食料や飲料水の備蓄を 2 週間分用意すること。
発生時には群衆の中に行かないこと。
米国では、事前準備にさらに高性能マスクの
購入を勧めている。大流行時には、風評に惑わ
されないようにと注意を喚起している。
7.まとめ
トリインフルエンザは、日常生活では個人レ
ベルでの注意事項を守り、どこでも家禽に頻繁
に接しない限り、また熱を通したものを食する
限り大丈夫である。しかし、一度パンデミック
が起これば、世界的に経済活動が大きく制限さ
参考文献:
1. Avian Influenza: Pandemic risks, Bird Flu outbreaks
3rd edition, RM Medical Health News 2006
2. Bird Flu: Everything you need to know about the next
PANDEMIC, Marc Siegel, Wiley 2005
3. The Monster at Our Door: The Global Threat of
Avian Flu, Mike Davis,The New Press 2005
4. The Bird Flu Pandemic: Can it happen? Will it
happen? How to Protect Yourself and Your Family if
IT Does. Dr Jeffrey Green,Thoma Dunne Books, 2006
5. Bird Flu: Everything You Need to Know. John
Farndon, The Disinformation company Ltd. 2005
6. 強毒性新型インフルエンザの脅威:21 世紀の黒死病 岡田晴恵編、藤原書店、2006.
7. 鳥インフルエンザの脅威:本当の怖さはこれからだ!
岡田晴恵著 河出書房新社 2004 年
8.鳥インフルエンザの正体:ジョン・コールマン博士 太田龍監訳 成甲書房、2006
9. からだを蝕むウイルスのすべてが分かる本 田中耕太
郎著 中経出版、2003 年
れ、個人の社会生活も大きな影響を受ける。日
13
2006 予防時報 227
航空輸送の安全
−現状と対応−
渡利 邦宏*
1.はじめに
昨 2005 年は、わが国の公共交通機関において、
大きな事故やトラブルが目立って発生した年で
あった。
鉄道関係では以下のような大事故が続発した。
3月・高知県土佐くろしお鉄道の宿毛駅で特急列
車が駅舎に衝突し、運転手を含む 11 人が死
傷した。
同月・東武鉄道伊勢崎線の竹ノ塚踏切で、誤って
遮断機を上げ、通行人4名が死傷した。
4月・JR 西日本福知山線の塚口・尼崎間で、快
速電車が脱線して線路脇のマンションに
突っ込み、死者 107 名、負傷者 400 名以上
が発生した。
また、
海上交通でも同様に事故が発生している。
5月・平港で、九州商船のフェリーが防波堤に衝
突し、乗客 22 名が負傷した。
6月・知床半島知床岬灯台沖で、観光船が座礁し
た。
7月・尾鷲沖で、タンカー同士が衝突し、1 隻が
炎上、6 名が死亡または行方不明となった。
9月・根室沖で、外国籍大型タンカーがさんま漁
船と衝突し、漁船員7名が死亡した。
一方航空関係でも、死傷者が発生するような事
故には至らなかったものの、以下のような重大な
トラブルが多発した。
1月・千歳空港で、情報伝達の不備と操縦士の思
*わたり くにひろ/日本ヒューマンファクター研究所
品質保証室 室長
14
い込みにより、離陸許可受領以前に滑走を
2006 予防時報 227
開始した。
3月・羽田空港で、客室乗務員が出発時業務輻輳
本年 4 月には「最終報告」としてまとめられた。
その検討において、
それらの事故やトラブルは、
によりモード変更の確認を失念し、離陸前
単に当事者のミスや思い違いだけによるものでは
に客室ドアモードを非常位置に切替忘れた。
なく、背後にある環境や組織を含めた総合的な対
3月・小松空港で、機長が副操縦士に対する業務
応を行なわないと、事態の改善は難しいとの結論
引継ぎに集中し、離陸許可取得を失念した
になった。
ため、管制許可を得ずに離陸を開始した。
一方、航空に関しても、同年 6 月末、国土交通
4月・羽田空港で、滑走路工事の情報伝達に不備
省航空局長の諮問により、航空各分野の研究者や
があり、管制官が閉鎖滑走路に着陸を指示
経験者を委員とした「航空輸送安全対策委員会」
した。
が設置され、航空に関するヒューマンエラーの発
6月・長崎−羽田間で、操縦士の予備システム機
生要因、機材不具合対策、予防的な安全対策、航
能に対する誤解があり、高度計故障による
空会社に対する国の監督のあり方などが検討さ
管制指示と異なる高度で飛行した。
れ、やはり8月末にその検討結果が取りまとめら
その後も機材故障による飛行中の減圧発生、エ
れた。
(http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/12/1
ンジン故障による引き返しなど、いくつかのトラ
20826_3_.html)
ブルが集中的に報道された。加えて外国でも8月
から 12 月にかけて多数の航空事故が散発し、社
3.航空の現状
会的にも航空の安全に対して大きな不安を与える
こととなった。
1)世界的な傾向
航空輸送はその高速性から近年急速に発展し、
2.国および航空会社の取り組み
今や社会活動に不可欠なものとなってきた。
しかし大 型航空機の利用が大きく 拡大した
このような事態を重大視した国土交通省は、
1950 年代後半から 1960 年代初頭にかけては、ま
2005 年6月、大臣の諮問機関として学識経験者
だ公共の輸送手段としては必ずしも安定した交通
の協力を求め、鉄道・航空・海運・陸運等、公共
機関とは言えず、航空機運航の増大に伴い事故の
交通全体を対象とした安全問題を検討する「公共
発生件数および死傷者数も大きく増加した。その
交通に係わるヒューマンエラー事故防止対策検討
ため世界各国は事故の防止に大きな努力を払い、
委員会」を設置し、交通機関の事故やトラブルに
1970 年代後半には事故率は次第に低下してきた。
ついて発生のメカニズムを検証し、企業風土のあ
しかしその後、長期間にわたってあまり変動のな
り方や事故防止技術などの検討を行った。
い状態が続いていたが、最近の約 10 年は安全に
その結果は、同年 8 月に「中間報告」を、また
対する新たな技術、手法の導入などにより、再び
15
2006 予防時報 227
わずかづつではあるが減少傾向を見せている。
事故件数)は依然として欧米先進国と比較しても
ただ 2005 年には、一時期世界各国において連
ほぼ同様の水準にある。
続的に墜落事故が発生し、事故件数、事故率とも
ただし、ここで言う「事故」とは、国際協定に
やや増加した。
(図1)
基づく定義によるもので、航空法では、
A.航空機の墜落、衝突、火災
2)わが国の状況
B.航空機による人の死傷または物件の損壊
日本の民間航空は、過去いくつかの悲惨な航空
C.航空機内にある者の死亡、または行方不明
事故を経験している。特に 1970 年から 1980 年に
D.他の航空機との接触
かけて発生した連続事故や 1985 年の JAL123 便
E.その他国土交通省令で定める航空機に関す
の墜落事故など未だに人々の記憶に残る大事故が
る事故
あった。しかし 1985 年以降現在まで 20 年以上、
と定めている。その意味では、昨年発生したいく
乗客の死亡にかかわるような大きな事故の発生は
つかのトラブルは、ここで言う「事故」には該当
ない。このような事はこれまでのわが国の航空史
しない。
上初めてのことである。
一方、事故にはならなかったが、場合によって
また近年、国土交通省航空・鉄道事故調査委員
は事故に発展する可能性のあったトラブル(重大
会が事故として処理した件数はやや横ばい傾向に
インシデント)は、件数は少ないものの冒頭に述
あるものの(図2)
、事故率(飛行回数当たりの
べたように、昨 2005 年においては前年より大き
図1 大型航空機事故発生状況(1959 ∼ 2005)
16
2006 予防時報 227
く増加した。
(図3)
どの社会環境の変化
この重大インシデントも航空法に基づき、国
C.経営環境の変化に伴う事業形態の対応
土交通省航空・鉄道事故調査委員会の調査対象と
航空輸送業界は長い間、国による認可事業とし
なった件数であるが、これ以外にも社会の安全に
て厳しい規制の下に、ある意味では保護された環
対する関心の大きさを反映して、通常の機材故障
境での経営を行ってきた。
や、
引き返し、
大幅遅延などいわゆるイレギュラー
しかし世界的な社会情勢の変化は、より積極的
運航も新聞などで、大々的に報道されたため、一
で自由な経済活動を求めるようになり、わが国に
層社会に大きな不安を与えることとなった。
(図
おいても 2000 年、航空法の大幅な改正により規
4)
4.トラブル増加の要因、なぜ近年、航
空関係トラブルが目立ってきたか?
前述の航空輸送安全対策委員会の報告書は、最
近のトラブルを誘発した背後要因として、以下の
事項を挙げている。
A.航空に関する規制緩和による経営環境の変
化
図3 最近の航空事故等(2001 ∼ 2006.6)/国土交通省
航空・鉄道事故調査委員会
B.同時多発テロ、SARS、原油価格高騰な
図2 日本の航空事故発生状況(大型機/国土交通省航
空・鉄道事故調査委員会データより)
注:2005 年、2006 年 6 月現在の事故各1件は、い
ずれも乱気流による客室乗務員等の負傷
図4 イレギュラー運航発生状況(2000 ∼ 2005)/航空
運送事業(国土交通省航空局データ)
17
2006 予防時報 227
制緩和が行われることになった。この改正により
上にトラブルの再発防止に積極的に取り組んだ。
航空事業の新規参入が容易になり、従来の国によ
ある航空会社は、外部専門家に委託して、企業
る需給調整は行われなくなった。それによってこ
のあり方を全面的に見直した。
れまでの路線毎の免許制度はなくなり、事業許可
さらに具体的施策として、
制になったため、運行ダイヤの構成も自由になり、
①現在の安全管理システムの再検証
また運賃の認可も不要になって、多様な路線や割
②安全情報の収集、分析方法の妥当性再検討
引運賃が可能となった。その結果、多くの新規航
③航空会社間の安全情報の交換、共有のあり方に
空会社が設立され、運賃水準が低下し、旅客の利
便性が向上するとともに、業界全体としても、旅
客数の増加をもたらした。
同様に、航空機の運航や整備に関して、これ
まで国により直接行われていた検査・監督は、事
ついての検討
④乗員訓練のあり方検討ならびに訓練方式の基準
化
⑤社内基準、マニュアル類をエラー防止の観点か
ら見直し
業者自体を認可することにより、事業者自身の責
⑥整備の外注化への対応のあり方の検討
任として行われるようになった。ただし、安全に
等を行い、改善を要するものについては即刻対応
関しては、国際的に定められた安全基準を遵守す
を始めた。
ることは必須であり、事業形態の規制緩和適用に
よっても、安全基準は決して緩和されたわけでは
6.公共交通関係法令の改正
ない。逆に、従前以上に強い指導・監督が行われ
てきた。
これらに対し、国土交通省は、航空の安全を法
しかしそのような環境において既存の航空会社
制の面からも確保するという見地から前記安全対
は、従来の体制から一層の経営の合理化が求めら
策委員会の検討結果をもとに、航空法の大幅な改
れるようになってきた。
正を行った。
そのような中で、前述のような世界情勢、経
今回改正された主な事項は次のとおりである。
済環境の悪化により、経営はさらに厳しいものと
(1)航空会社の安全管理体制構築の義務付け
なった。そのような背景において、組織内部の意
A.安全管理規程の作成
思疎通の不備などが加わり、トラブルを誘起させ
B.安全総括管理者の選任の義務化
る下地になったのではないかと考えられている。
(2)安全に関する情報の公表および報告制度の
創設
5.航空会社の対応
A.国による安全に関する情報の公開および航
空会社による安全報告書の公表
一方航空会社各社も、幸い大事故には至ってい
B.安全上のトラブルの国への報告基準の変更
ないものの、このような事態を重大視し、従来以
C.安全確保のための国の指導・監督の強化
18
2006 予防時報 227
これらに関しては既に本年 3 月末、国会の承認
高めて、安全に対する不安を解消することを狙い
を得、現在実施細則である省令の検討が行われて
としている。
いる。
実は安全に関する法律の改正は、航空だけでは
7.おわりに
なく、最近の事故、トラブルに関係する殆どの公
共交通機関に対し同時に行われた。
よく知られているハインリッヒの法則(H.W.
これも前述「ヒューマンエラー事故防止対策検
Heinlich,1931)というものがある。
討委員会」の検討結果を受けたもので、
対象となっ
大事故が1件発生するまでには、29 件の中程
た交通機関ならびに関係法規を表1に示す。
度の事故があり、またその下には 300 件の軽微な
不安全状態があるという。昨今の航空に関するト
表1 公共交通関係法令の一斉改正(2006 年3月)
ラブルは、この法則で言う 29 件の中程度の事故、
あるいは 300 件の軽微な不安全に該当するかもし
交通機関
関連法規
鉄 道
鉄道事業法 軌道法
航 空
航空法
また最近のトラブル状況と 1980 年代米国の航
自 動 車
貨物自動車運送事業法
空規制大幅緩和による事故続発との類似性につい
海 運
海上運送法 内海海運事業法
て論じられる事がある。米国における事故の多く
れない。
は急激に乱立した新興航空会社によるものが多数
いずれの法令においても、以下の事項について
を占めていたが、徐々に事故率が低下してきた。
は共通的に定められた。
これは事故の教訓を活かした多くの安全対策が
①各法の冒頭に、法制定の目的の一つとして、公
1990 年代になって効果を現してきたものである
共の安全を確保することを明確にする。
が、わが国の航空会社も当然そのような過去の歴
②企業の安全に関する責務を明確にする。
史を理解し、多くの安全対策を取り入れてきた。
③国により承認された安全管理規程の制定を義務
しかし、1980 年代の米国とは様相が異なるも
付ける。
のの、ハインリッヒの 29 件あるいは 300 件のト
④権限ある安全総括責任者の選任を義務付ける。
ラブルを警鐘とし、最後の 1 件の大事故に発展さ
⑤安全管理規程に係わる国の立ち入り検査を明確
せないために、官民一体となって認識を新たにし、
にする。
⑥安全に係わる情報の公表を義務付ける。
(鉄道・
航空のみ)
今回改めて見直された安全に関する諸施策を適確
に推進することが始められている。幸い 2006 年
に入り大きな問題になるようなトラブルは発生し
すなわち、企業の安全に対する責任、管理体制
ていないが、今後はそれを継続させ、航空の安全
を明確にすることにより、安全性確保の意識を高
を更に高めて行くことが望まれている。
め、同時に安全情報の公開等により社会の理解を
19
2006 靜陨躞闱 227
座談会
諩识苉芹苜苩譚轰鍠辳離釨
软郈軒腆
ばば
れんせい
鑮迪腀腀邬腀東京理科大学専門職大学院知的財産戦略専攻 教授
ふじむら
なおたか
鎡醺腀銼赆腀三井化学株式会社 理事/安全・環境部長
もり
かずお
遘腀腀顡镶腀株式会社技術・技能教育研究所 代表取締役/博士(工学)
蹩觯腆
たむら
まさみつ
鍣醺腀边蹏 横浜国立大学 教授/本誌編集委員
ఐᡒṈ᜿ᢟ᭼ᶇග᥮Ჳ඙ᖹᚖൺᲵ⊚ᢜ≀අඍᦠ
Ꮕൺᶸ἞වᝍ൶఑Ჵ⊚඙Ხᬕඅඔඃඬ඄ඬ඘ᦠ
ᒿḙᐵᚏൺ∬ᱺඃයඹ 2007 ἞↲ᲸගᎺඒඖඅ
ඔ఑ᮋᱲᚖ඘඗඙൸ൿඹᘪᩀḰ᪃↲Ჸൺพ๝ఫ
ษฑาๆඃයඔ൲ඹఒ
ఐᘪᩀḰ᪃↲Ჸඝ᎐ᰣకℸᢠ඙ධᬫൽᖦලඑඔ
൸ම఑⅋ᥟ₢ᨧ᎟ᏅᒿඕධᲵൻ඘ᖦᬣවᗁඉඔ
൲ඹఒඋඁඕ఑ඁග↲Ჸ඙᪪අ൲ᮺ↵ᒖග⃋న
඙ංᤡᒑ൲ඍඎ൲ඔᢐᴻᒿවᢓඇඁඖ඙඘එඍఒ
ẗᦢගංᤡᠼ඙඘යඞ᠛൲ඕ൰ඹఒహḳᲊ఺
(この座談会は 2006 年 6 月 30 日に行われました)
譚轰腁譚鑜鍠辳離釨苆苌論苭苨
蹩觯腩鍣醺腪
はじめに「技術伝承問題」との
関わりを含めて簡単に自己紹介していただきたい
と思います。
私の専門分野は化学で、日本化学会や大学での
化学安全問題に関わってきました。また最近はコ
ンプライアンスやリスクガバナンスの問題にも関
わっています。
産業安全では、一つの大きな問題として技術伝
承問題があります。世代交代が主な要因ですが、
さらに人の感性や価値観が以前とは大分変わって
きています。それらのことを踏まえて、技術ある
いは技能をどうやって伝承していくかということ
に、非常に関心を持っています。
20
2006 靜陨躞闱 227
腀遘 技術・技能教育研究所の森です。今まで、
大学に在職してきましたが、活動領域を広げる
には会社のほうがやりやすいと思って独立しまし
た。
教育や心理学に関心を持って、
「わざ」の上達
の問題を長く扱ってきました。どうすれば上達す
Ἶ
᪺
ఐ
ఐ
᭼
ᥑ
るか、優れた人とそうでない人の違いは何か。会
社を中心に、研修センターあるいは研究所と一緒
に企業の中の教育問題を対象にしてきました。究
極にはメンテナンス分野に最高度の熟練が集まる
のではないかと考えて、メンテナンス技能の問題
を扱い始めました。
今、人材開発、人材育成の関係者のサークルを
それでは、藤村さんから順に自己紹介をお願い
つくろうと、企業を横つなぎするNPOを7月に
します。
立ち上げる予定です。現在はある研究センターと
腀鎡醺 三井化学の藤村です。私は元来機械屋
暗黙知をクリアにするための活動を、それから和
で、入社以来プラント建設等をやってきました。
紙メーカーで安全と技能の問題を、もう一つは大
それはエンジニアリング会社がやる分野とは違
手ガラスメーカーで技能伝承活動を支援していま
い、
「オーナーズエンジニアリング」と言いますが、
す。また、医師の教育、大学教員の教育などの活
プロセスオーナーがやる領域で、幅広く専門的に
動もやっています。
という感じの仕事です。
会社自体は創設したばかりですが、
「わざ」の
技術伝承との関りを言うと、30 代になって設
伝承問題についてこれからも新しい問題にチャレ
計分野で部下ができ、学卒の若い者を相手に、O
ンジしようと思っています。
JTで人を育てたというよりは、一緒に仕事を
腀鑮迪 もう 10 年以上前になりますが、私は読
やってきたという感じです。次に大きなプラント
売新聞の論説委員になって、地震などの災害、あ
建設の班長もしましたが、高卒のベテラン運転員、
るいは重大事故が起きたときに社説を書く担当
中堅の学卒スタッフたちと共に、基本プロセスか
になりました。7年間で社説を 280 本ぐらい書き
ら運転まで仕上げるというような仕事です。
ましたが、そのうちの 40 本ぐらいは災害の問題、
新しいプラントを稼動するとき、たとえば3交
予防、防災、地震、事故などをテーマに書いたと
替職場だと4つの班になりますが、経験豊富な運
思います。
転員は各班一人、後は若手運転員をOJTで育成
それから先ほど皆さんのお手元に『大丈夫か日
しながらまとめ上げる必要がありました。
本のもの作り』という本を配布させていただいた
その後技術部長になってからは、学卒の若い社
のですが、これは産業技術現場のIT化について
員を一人前のオーナーズエンジニアに育てること
取材し、技能がどのようにして技術に置きかわっ
に努力しました。
ていったかを書いた本です。技術伝承問題につい
今は「安全・環境部長」ですので、それまでの
ての私の発言は、この本に書いてあることがバッ
自然科学の世界から、人間の心に焦点を当ててこ
クグラウンドです。
そなし得る安全確保という難しい分野に取り組ん
中国の金型産業のリーダーが、
「日本が延々 30
でいます。
年かかってやってきたことを我が国は3年で追
21
2006 靜陨躞闱 227
いつきます。
」と言いましたが、最新型のマシニ
す。
ングセンターを導入してちょっと訓練した若者を
680 万人のうち技能系の人たちが大半を占めて
使うと、日本の熟練職人が手がけた製品と全く変
いますが、この人たちが就職した高度成長期には
わらないような金型を造ってしまうという時代で
産業界で大量に採用されました。その後、オイル
す。そうなったときに、日本企業がどのようにし
ショックで労働人口が減ります。バブル期に少し
て競争力をつけていくかということが、大きな課
復活して、また最近不況が長く続いて労働人口が
題だと思います。
減って、年齢構成が二こぶ山になっています。こ
大胆なことを言えば、これから 20 年の間に熟
の第1のこぶに属する方々がこれから産業界を去
練職人と同じような「わざ」を発揮する現場で中
ろうとしているわけです。
心になるのは、コンピュータライズされたものを
腀蹩觯 藤村さんはまさに今、技術伝承問題の渦
操作する人々であって、それは若者の感性と直感
中にあって、いろいろ苦労されていると思います
力が非常に大きく寄与する時代になるだろうとい
が、現状はいかがですか。
うのが、私の主張です。
腀鎡醺 我が社では技術伝承問題というと、オペ
レーターの運転技能の伝承問題を考えています。
いくらIT化しても、結局は人間に頼るところ
譚轰鍠辳離釨腁
2007 鑎離釨苆苍覽苈苌芩
があって、特にエマージェンシー対応をどうする
か、パニック状態になったときに対処する技能、
要するに経験の伝承が非常に大切だという認識で
腀蹩觯 それでは、まず「技術伝承問題という
す。
のは一体何なのか」
、
「2007 年問題とは何なのか」
私が入社したころは、ある会社のエチレンプラ
ということを、わかりやすく解説していただきた
ントが大爆発を起こすなど、化学工場の事故は当
いと思いますが、森さん、いかがでしょうか。
たり前のように起こっていました。
腀遘 「技術伝承」という言葉は、技術と技能を
いかに事故を防止するかを考えたときに、設備
込みにしたものを「技術」と呼んでいると思いま
は当然として、人間系の対策が重要でそのために
す。
は創造力のある人間が必要であると考えました。
私は、
「わざ」があってその「わざ」の方法・
この創造性を伝承することが大きな課題だと思い
手段を表現可能な状態にしたものが技術だと説明
ます。
しています。
「わざ」を駆使して製品を造る実践
2007 年問題では、実は私もベビーブームのまっ
的な活動が技能で、それは個人に宿っている能力、
ただ中という世代ですが、当社のある工場でも半
一般の人が簡単にまねすることはできないもので
分以上が退職を迎えます。会社は高度成長期、
我々
す。これに対して技術は、ペーパーで伝えるなど
の世代を大量採用したのですが、成長が止まると
表現できて、だれでも同じような結果を出せる方
たくさんの人間は要らないから、我々の後はしば
法・手段です。現在は技能と技術の境目が分から
らく採用していないのです。
なくなっており、私は「技術・技能伝承問題」と
ですから、何か大きな仕事を計画して「だれに
言うことにしています。
やらせようか」というときに、以前ならたくさん
2007 年問題とは、2007 年から3年間で約 680
の社員の中から選べたのですが、今は選べるほど
万人が定年退職して、技能を身につけた人が産業
余裕がありません。これが非常に大きな問題です。
界からいなくなる、その人たちの技能を次の世代
2007 年問題を定年延長という手段で逃げようと
に伝えていくにはどうしたらいいかという問題で
いう考えもあります。それで4、5年は逃げられ
22
2006 靜陨躞闱 227
たとえば 10 年前に行われていた産業現場の技
術が 10 年後も同じように使われているというの
は余りないわけで、10 年という年月の中では進
歩を遂げました。知らず知らずのうちに技術伝承
が行われてきたのだと思います。
私は今、
産業革命が進行中であると見ています。
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ᥑ
数年後にスパコンと同じようなパフォーマンスを
持つコンピュータが我々のデスクの上に乗ったと
き、何をやるかが問題になるわけで、技能の技術
化はもちろんですが、技術のさらなる技術化とい
うことが技術伝承の中に入ってくると思います。
これは日本にとっては絶好のチャンスが訪れた
と、ポジティブに受け止めたほうがいいのではな
るでしょうが、その後はどうするのか考えると安
いかと思います。
易に採るべき道とは思えません。やはり新しい人
2007 年にリタイアする方々は、高度成長期を
間にきちんと伝承していくべきだと思います。
支えてきた功労者ですが、その方々の役割はもう
腀蹩觯 森さんは技術・技能伝承問題の現状をど
終わったのです。
幾つかの企業を見学しましたが、
のように見ておられますか。
ドラスチックに製造現場を変えようとしても、い
腀遘 会社の労働力人口の変動を予測して、教
わゆる守旧派と見られる人々がなかなか新技術を
育システムがきちんと確立していればいいのです
受け入れないために非常に遅れているという状況
が、生産に追われたり、省力化、省人化、コスト
もあります。
ダウン、
あるいは海外展開という、
いろいろなファ
その守旧派は、大体 2007 年問題で辞めていく
クターの中で教育が順調に行われないことの象徴
団塊世代の方々なのです。そういう方々がリタイ
が、この技能伝承問題だと思います。
アして、新しい世代の人々が新しいツールと手段
どの企業に行っても同じような問題を抱えてい
を携えて産業現場を変えていく、そういうチャン
て、企業のこの状況をだれが支えてどのように運
スととらえて改革していくということです。
用するかと、今どこでも悩んでいるのではないか
と思います。
ですから、逆に今こそ、教育の正しい流れを作
荸荥莉莓苌誴邫苰鍠芦苧苪苩芩
るいいきっかけだと考えています。
腀蹩觯 馬場さんは、2007 年問題あるいは技術
腀蹩觯 技術伝承問題はなぜ起こったか、その背
伝承問題、技能伝承問題を含めてどのように現状
景についても少し議論しておきたいと思います。
を見ておられますか。
藤村さんは背景要因について、どのように見てい
腀鑮迪 最近の産業現場は、IT化というツール
らっしゃいますか。
によってドラスチックに変化したので、技術伝承
腀鎡醺 私はいつも若い技術者たちに「今こう
問題がクローズアップしたのだと思います。いつ
なっているのはおれたちが悪いのだよ」と言いま
の時代でもあったことが短期間で行われたから大
す。これは馬場さんの話とほとんど一緒です。若
きなテーマのように思われているに過ぎないと思
い技術者にとっては、私たちの年代は、成長を妨
います。
げる重石でもあるのです。ですから、ベビーブー
23
2006 靜陨躞闱 227
ム世代が辞めて重石が取れることが成長にはいい
場のオペレーターも集めて、運転技能の研修をす
ことでしょうが、一方で重石が取れた瞬間が非常
る計画です。
に怖いと思います。そこの問題を解決すればいい
教育システムは以前から持っていて、
たとえば、
のだろうと思うのです。
高卒の運転員については製造5段階教育というシ
我々の時代に事故がたくさん起こったと言いま
ステムがありますが、当社の教育システムはよく
したが、その経験によって私たちは成長をしてき
できているほうだと思います。
ました。その体験によって得たものは、簡単にI
今、大切なのは、教える側の人材を育成するこ
T化できるとは思えませんから、一時的には事故
とでしょう。
が増えるだろうと思います。
腀蹩觯 冒頭にちょっと触れた感性の問題です
それともう一つは、当然ながら今持っている技
が、私たちは小さいときからいろいろな危険に遭
術でずっと生きていくわけではなく、新しい創造
遇して痛い目に遭いながら、けがをしないために
性のある技術が出てきます。それには当然未知の
はどうしたらいいか、身をもって体験してきまし
危険も潜んでいるわけですが、若い技術者は未知
た。しかし、最近の若者のように常に安全な環境
の危険の対処方法を知りません。危険予知のポイ
の中で育つと、危険を回避する知恵が身につかな
ントを体験として持っていないと、IT化のみで
いから、一般的な傾向として危険に対する感性が
対処するのは難しいと思います。
低下してきているのではないかと思われます。
腀蹩觯 森さん、今のお話に何かご意見がありま
かつてオペレーターは、プラントを巡回して、
すか。
ちょっとした音や臭い、あるいは振動などで設備
腀遘 教育問題について言うと、企業で行われて
の異常を察知して、それなりの手を打ってきまし
いるOJTは本物かどうかということです。
「仕
た。ところが、最近はプラントを回ってもそうい
事を一緒に、ペアでやらせれば伝承できる、その
う兆候がわかりにくくなってきている、あるいは
ためにOJTをやっています」と現場は言うので
忙しくてプラントを回る時間もなくなってきてい
すが、本当に教育成果が上がっているか疑問です。
るという事情もあります。
OJTは教育目標を立てて、その目標を達成で
また、発展期にはいろいろ活躍の場があって、
きたかどうか評価すべきですが、仕事を優先する
皆やる気を持って仕事をできたのですが、成熟期
と教育の質を下げて期日に合わせて生産しますか
になると、そういう機会になかなか恵まれないと
ら、教育効果は低下します。ですから、現実には
いう状況になります。それで、自分のやりがいは
「OJTをやっています」というのは、ほとんど
アフター5の中で見出そうという価値観を持った
行われていないことの代名詞だと産業界で言われ
人が増えてきました。
ています。
人々の感性と価値観が変化して、教育効果が上
コストをかけてしっかり本腰を入れてOJTを
がりにくい環境になったという面もあると思いま
実施して、本当に教育効果が上がったか検証する
す。今後どうしたらいいのか、一つの課題という
ことを今こそ実行すべきだと思います。そうすれ
感じがします。
ば、事故の多発も防げると思います。
そのあたり馬場さんは何か感じていることはあ
腀鎡醺 現在当社は、教育には本腰を入れていま
りませんか。
す。
腀鑮迪 先ほど、また事故が増えるだろうと言わ
たとえば、今年の予算でオペレーターの研修セ
れましたが、私はこの言葉を非常に印象深く聞き
ンターを作ります。運転や事故を体験できる設備
ました。
を作って、日本全国だけでなく、アジアの海外工
1990 年代の後半から始まった急激な技術革新
24
2006 靜陨躞闱 227
到達すべき人物像をクリアにし、OJTと Off-J T
を効果的に組み合わせて、目標に到達することで
す。そして、到達度を実感として見えるようにし
ないといけません。漠然とした目標で漠然と評価
していたのでは、コストの無駄遣いです。
優れた人たちの感性をどうやって伝承するかと
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ᥑ
いうと、それはマニュアルに落とすとかあるいは
1回体験させれば伝承できるというものではあり
ません。やはり人格的にも技能的にも優れた人を
何人か現場に配置して一緒にプラントを回って教
育するというように、経験の共有化が必要だと思
います。
によって産業現場がドラスチックに変わって、こ
腀鎡醺 それも、現場を体験しているものの立場
れまでの、経験に蓄積された作業手順や製造技術
で言うと、向上心や競争心があって成り立つ話で
などが、短期間のうちに違う局面に変わってしま
すね。
いました。したがって、経験したことのない事象
同じプラントをA、B、C、Dの4人に巡回さ
が出てくる確率が非常に増えました。
せると、Aさんは異常の兆候を見つけますが、ほ
危険を予知して事故などに的確に対応する能力
かはだれも見つけられません。Aさんはパトロー
は、経験則に負うところが大きいのですが、この
ル名人と言われている感性の優れた人です。
ように短期間に技術革新が起こると、危険予知や
その感性をB、C、Dに伝えて成長させようと
緊急時対応が非常に難しくなります。
しても、B、C、Dに競争心や向上心がないと育
ですから、新しい産業現場に起こり得る危険は、
ちません。教えられる側のモチベーションをいか
自ら考えて対応する能力を身につけなくてはなり
に高めるかがキーポイントです。
ません。それが今産業教育の現場で望まれている
のであって、そのためには受動的な教えられる教
育ではなく、自ら企画して取り組んでいくという
詷邶苌讳裧苰赬芦銼芷镋靶芪芠苩
能動的な教育が必要なのだと思います。
腀蹩觯 森さんはいろいろな企業で教育に携わっ
腀蹩觯 感性には、本質的に持っているものと教
ておられますが、教育はどうあるべきとお考えで
育によって上がる部分がありますが、教育でどこ
しょうか。
まで上げられるかどうか。
腀遘 先ほどOJTの話をしましたが、Off- JT
腀鎡醺 私たちより上の年代の、優秀な高卒の
の問題もあります。
方々に聞くと、
「あいつには負けられんと思って
ある大手工場では、巨大なコストをかけて、
頑張った」とほとんどの人が言います。ところが、
9,000m の訓練センターを作りました。そこでは
今の人たちは負けても平気なのです。小学校から
事故などをシミュレーションでき、事故が起こっ
「競争してはいけません。運動会で1等2等はつ
たときどうすべきか、皆で検討することもできま
けません。
」と教育されてきた人が、すでに私た
す。
ちの現場に大勢います。それが感性教育を難しく
しかし、立派な施設を作ったことに余り過大な
している原因だと思います。
期待をかけてはならないと思います。大切なのは、
少し話がそれますが、私たちの年代の人は現場
2
25
2006 靜陨躞闱 227
で何か困ったことがあると、大学時代の教科書、
化、価値観、行動様式、そういったものの何を残
熱力学、材料力学、機械力学などの本をひっぱり
し、一方、学生たちの価値観や行動様式の何を積
出します。要するに原点に返るのです。
極的に認めるかということだと思います。
問題解決への我々のアプローチは、まず仮説を
固定概念を払拭して、学生のよさを引き出すこ
立てて、仮説を覆す証拠が1個でもあったら、こ
とが大切ではないでしょうか。学生の振る舞いで
の仮説は間違いだとわかる、そういう考え方で解
気に入らないことがあったら、それは、自分自身
に近づこうとします。
の柔軟性を問われているのだと考えるくらいでな
ところが、今の学生は何をやっているかという
いと、指導できないと思います。
と、インターネットで事例を探すのです。それは
腀蹩觯 今の学生が考えることが苦手なのはなぜ
すごい検索能力です。それでおもしろい答えを出
なのでしょうか。恵まれ過ぎたのでしょうか。
すこともあるのですが、創造性はありません。事
腀鑮迪 教育の方法をやはり誤ったのではないか
例を探すということは、既存のものしか手に入り
思います。
ません。
私が教育に携わって感じたのは、今の若者は自
プラント建設のときに、入社間もない3人の学
分の考えを発信することができないということで
卒を預かりましたが、そのときに、冷却塔はな
す。私はいつも講義の後、講義の中からテーマを
ぜ冷えるか、明日までに答えを持ってくるように
選んで、自分の考えを述べなさいと、10 分間論
言ったのです。それは熱力学の理論に戻れば簡単
文を書かせるのですが、初期のころは、自分の意
なのですが、なかなか正解が出てこないのです。
見でなく、先生がこう言ったということを書くの
直接的な答えを探しているのです。これはいか
です。
んなと思いましたので、その後約1年半の建設期
ところが、2回3回と続けていくと、
「私は先
間かなり厳しく指導しました。その成果かどうか
生と違う意見です」などと堂々と書くようにな
は別にして、今では立派な技術者として活躍して
ります。教育とはすばらしいもので、10 分間で
います。
自分の意見が書けるようになります。訓練次第に
腀鑮迪 先日、文科省の科学技術政策研究所のレ
よっては考える力も身についてきます。
ポートを取り上げて、科学技術政策論の授業をし
企業の社員教育でも、同じような手法で自ら考
ました。そうしたら、レポートがインターネット
えて実行する能力を育てられるのではないでしょ
で開示されているので、
学生が先読みして、
「先生、
うか。
ここに出ているのと同じですね」と言われて、大
腀蹩觯 そういう方法で学生たちの気持ちを変え
変な時代だと思いました。それで、
「学生には絶
られるということは、非常に期待できる気がしま
対わからないオリジナルな授業をやってやろう」
すが、企業内教育に取り入れるには、難しい問題
と思って、絶対にネットでは調べられない内容に
もあるように思います。
急遽組み替えて、授業をしていますが、まさに藤
村さんが言われたように、インターネットで検索
してくるのはものすごく速いです。
ですから、調べるのではなく、考えなければな
譚轰鍠辳離釨苖苌野覞苍
趡賣苇芤芠苩苗芫芩
らないような題材の授業をしないと、失敗すると
思います。
腀蹩觯 技術伝承あるいは技能伝承に関して、今
腀遘 学生との関わりでは、大学の教員が考えな
後どうあるべきかということに、話を進めたいと
ければならないのは、自分自身の育った時代の文
思います。
26
2006 靜陨躞闱 227
腀鎡醺 技術伝承問題がなぜ起こったか考えれば
のように認識しているのでしょうか。
いいと思います。その原因を排除しなければ、O
腀遘 若い人たちの中には、伝承されるのは困る、
JTあるいは Off- JTによる技術伝承は成り立
という感覚が結構あります。伝承されると、その
たないだろうと思います。
会社にずっと勤めなければならなくなるから困る
一つは、技術伝承を叫ばなければならなくなっ
と言うのです。
た中長期的要因を排除することで、これは、先ほ
責任を持ちたがらないので、彼らが受け止めや
どから出ている日本の教育のあり方を変えること
すい形での伝承の仕方を考えないと、難しいので
です。10 年かければ、変えられるでしょう。
はないかと思います。
それからもう一つは、ISO的な考え方が創造
腀蹩觯 教育以外には、大切なこととしてどんな
性を阻害すると思います。ISOの認証はシステ
ことが考えられるでしょうか。
ムが回っているかどうかを見るだけです。
「何々
腀鎡醺 危機感の共有化、要するに世界の中の日
を変えるときは、だれが発議してだれの承認を得
本を見て、
「このままでいいのかい日本は。
」とい
なさい。
」というように、
創造性を殺すことをやっ
うことを、日本人全部が共有化できればかなり変
ているわけです。
わるのではないでしょうか。
ISOは今ではビジネスの免許証みたいなもの
企業でも上から下まで、技術伝承ができていな
ですから、国際社会の中で企業が生きていくため
いことの危機感を持てば変わると思います。
には、否定することはできませんが、ISO以上
腀蹩觯 森さんは先ほど、日本ではまだ一部しか
のことをどのようにしていくかを考える必要があ
この問題について取り組みをしていないと言われ
ると思います。
ましたが、そのあたりはいかがでしょう。
教育にしても、ISOのようなシステムにして
腀遘 まだ大丈夫だろうと、安易に考えていると
も、創造性を阻害するような要因を排除していく
思える会社が多いのです。現場は危機感を持って
ことが、遠い道のりかもしれませんが正しい道で
いても、非力ですから生産優先と言われるとそれ
はないかと思います。
に従わざるを得ません。
腀遘 技能伝承のセミナーのテーマの3分の1
ですから、トップの意志決定が大事で、それに
は、若者世代と上の世代のコミュニケーションの
よって「社内のシステムを変えてでもやるべきこ
問題です。自分の経験をいかにスムーズに若者に
とはやる。
」というような意思表示が望まれます。
伝えるかというときに、育った時代の違いによる
そうでなければ「伝承問題でいつまでも悩んでい
コミュニケーションギャップで困っている人が多
なさい。
」と言いたいくらいです。事態はそこま
いのです。
で来ているのです。
今の若者はマニュアル世代、メール世代で、リ
腀蹩觯 馬場さんは教育の次に大事なものは何だ
セットすれば初めからチャレンジし直せ、卒業研
とお考えですか。
究はシミュレーションだけで論文が書けてしまい
腀鑮迪 教育より先かもしれませんが、決断と実
ます。こういう若者たちの心に働きかけないとい
行です。私の専門分野で言うと、知的財産を権利
けないわけです。
化していかに世界の覇権を握ろうかと、さまざま
ですから、指導者側は守るべきことと、若者に
な分野で熾烈な競争が行われています。
譲歩してもいいことを、若者とのやりとりの中か
ここで重要なのはトップの決断と実行です。森
ら掴んでいくというような姿勢が必要だと思いま
さんは「現場は非力」だと言われましたが、やは
す。
り上から強力な指示がないと、現場は力が入りま
腀蹩觯 受け継ぐ側の世代は、技術伝承問題をど
せん。ですから技術伝承問題でも、トップのリー
27
2006 靜陨躞闱 227
ダーシップ、決断と実行が重要だと考えています。
ングの企業があって、モデル工場を作っています。
腀蹩觯 そうですね。藤村さんも言われた、トッ
そういうのを見ると、10 年先 20 年先のものづく
プの本気度、決断が本当に大切ですね。
りの現場はあのように変わっていくのかと予感し
ます。
そのときに人間は何をするのか、あるいは社会
賙靰鞬鎮覻腁
荁荅荧荜腛荖莓荏覻苆譚轰鍠辳離釨
は何をするのか考えると、皆がかっこいい技術革
新の仕事にだけ取り組むのでは、居心地のよい社
会にはなりません。田舎のバスも町役場も必要な
腀蹩觯 雇用の流動化あるいはアウトソーシング
のです。そういう社会システムが無事に動いてい
化は、技術伝承を考える際の非常に大きなジレン
ないと居心地がよくないですね。ですから、社会
マになると思いますが、いかがでしょうか。
のメンテナンスの価値を認めて、バランスのいい
腀鎡醺 答えになるかどうか疑問ですが、20 年近
社会を作っていくという考えが出てこないといけ
く前に当社では、だれでも同じにできるように技
ないのではないかと思います。
術基準を作ろうという方向に、動きました。
腀蹩觯 これからの社会がどうなっていくかとい
虎の巻的な技術基準は、ものを考えない人間を
うのは確かに難しい問題ですが、大きな流れはそ
作ってしまうという理由で、私はかなり反対しま
ういうことなのでしょうね。
した。またアウトソーシングは決められたように
腀鑮迪 我が国は今までは消費社会、物質社会で、
業務を行うのが原則ですから、アウトソーシング
物は飽和状態になって、今欲しい物を言ってみろ
先に考えてくれと言っても無理です。そのような
と言われてもほとんどありませんね。ブランドも
議論を随分しました。
のとか、自分好みの付加価値のあるものなら欲し
結果としては、基準化して考えなくてもできる
いけれども、それ以外には欲しい物はないという、
ようにしたのは決して間違いではなく、基準化し
いわゆる成熟社会になりました。
ていなければ現在がないかもしれません。しかし、
そして今、イノベーションの創出ということが
やはり考えない人間を増やしたのも事実だという
言われています。知的財産権のさまざまな現場を
気がします。
見ると、いかにしてクリエイティビティーを発揮
腀蹩觯 パターン化することによって考えること
するかが問題になっています。
がだんだんなくなってくる、と。
成熟した社会になって最も重要なことは、いか
腀鑮迪 雇用の面で言うと、技能の技術化が起こ
にメンテナンスして、社会を今までどおり無事に
ることによって、会社に対する帰属意識が薄れて
運営していくかということだと思います。
いくと思います。
予防とか防災面では、
「防災メンテナンス」と
営々と経験を積み重ねてきた熟練社員の技能
いう概念があっていいと思います。たとえば東
が、いまや技術化され、コンピュータによってだ
海地震が起きた場合に、どのようにして災害を極
れでもできるように標準化されてきました。それ
小にするかという防災メンテナンスが考えられま
によって、会社に従属している価値がだんだん薄
す。
れてきて、雇用はどんどん流動的になります。こ
そういうことがイノベーションと同じ比重で考
れは時代の一つの流れと考えるべきでしょう。
えられないと、成熟社会はバランスの取れたもの
今、先端技術の最前線では、暗黙知、あるいは
にならないだろうと考えます。防災メンテナンス
人が考えて生み出すようなものまで技術化しよう
とは、まさに技術伝承の問題でもあると思います。
と大胆に取り組んでいるグループやコンサルティ
28
2006 靜陨躞闱 227
営は決して得策ではないと思うのです。トータル
バランスを考えながら教育にコストを投入して、
相対的なコストダウンに成功するという形を目指
した教育づくりがとても大事だと思います。
それから中小企業などではここ数年技術伝承問
題に苦労されるところがあるだろうと思います。
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そういうところに対するサポート体制は、一人
の力ではできないので、業界、マスコミも含めて
さまざまなところの協力が必要だと思います。
腀蹩觯 馬場さん最後にお願いします。
腀鑮迪 直近の幾つかの調査を見ると、国民は今
何を望んでいるかというと、まず安心・安全な社
邬轮軐觯苰裛躝芷苩芽苟苉苠
譚轰鍠辳苍釥郘
会を望んでいます。それから健康を維持して長生
きしたいということに非常に気を使っています。
それから食べ物に気をつけることが国民の関心事
腀蹩觯 最後に言い足りなかったことなど、一言
になっています。
ずつお話いただきたいと思います。
トップ 10 を挙げると半分ぐらいはそのような
腀鎡醺 化学会社の立場から言うと、会社の価値
問題です。後は、新しい携帯電話が欲しいとかI
を上げていくには、新しいテクノロジー以外何も
T関連の装置が欲しいというのが3つぐらいで、
ありません。たとえば新しい触媒、あるいは新し
残りは旅行をしたいとか楽しい時間を持ちたいと
い物質を生み出すことに大きな力を注ぎます。こ
いうものです。
れはクリエイティブな仕事です。その能力をしっ
こういう調査結果を見ると、我々の望みは、技
かり伝承していきたいと思います。これは技能の
術革新の成果物をいち早く手に入れて楽しみたい
伝承ではなく技術の伝承です。
という部分と、自分の生活をより充実して平和に
もう一つは、事故を起こさないでプラントを正
安心して過ごしたいという部分で占められている
常に運転する維持管理的な能力の伝承です。これ
ことがわかります。
は逆に技術ではなく、技能の伝承です。この二つ
そうしてみると、成熟社会を維持していくため
をしっかり伝承していきたいと考えます。
には、伝統的な生活様式を経験に立脚したシステ
腀蹩觯 森さんいかがでしょうか。
ムや技術で維持していく部分と、イノベーション
腀遘 以前、
「学習企業」という言葉がはやりま
に立脚したもので人々の満足度を高める部分が必
したが、教育が日常自然に行われるような社内の
要だと言えます。
雰囲気、風土が望まれます。働きながら学べて、
ちょっと広い意味で考えると、成熟社会を安全
学ぶことが新たな仕事を生み出すことにつながる
に維持して、安心して過ごせる社会にするために
という仕組みを作りたいですね。
も、技術伝承が生きてくるという認識が、企業に
今までそういう仕組みがなぜ生み出せなかった
とっても国家にとっても、また個人にとっても大
のでしょうか。目先のコストに目を奪われてトー
きなテーマではないかと思います。 タルコストが見えなかったという可能性もある
腀蹩觯 今日は長時間に渡り、貴重なご意見をい
し、事故を起こして初めてコストが見えたという
ただきまして、まことにありがとうございました。
ことかもしれません。いずれにしてもそういう経
29
2006 予防時報 227
マネジメントシステム規格の
現状・課題・展望
∼社会・適用組織にとっての意義、そして有効活用∼
飯塚 悦功*
1.現状:品質、環境、そして……
EMS の意義は、それまで品質のみだったのが環
20 年前に「マネジメントシステム規格(MSS:
第三者機関が組織運営のある側面(品質、環境
Management System Standard)
」と言われて
など)のマネジメントシステムの健全性を評価
も、一体何を問題にしたいのか誰にも分からな
し登録するという民間の制度が、社会制度とし
か っ た だ ろ う。20 年 前 と い う と 1986 年、ISO
て機能しうることを示すものであった。ときあ
9000 シリーズ規格(品質マネジメントシステム、
たかも組織の社会的責任が問われ始め、また規
QMS: Quality Management System)のうち、
制緩和が叫ばれるなか、組織の公正性と透明性
ISO 9000(用語)のみが発行されていて、ISO
を確保するための民間の制度として、その意義
9001 ∼ 9004 は翌 1987 年 3 月に発行される直前
が見直されたのである。
ということになる。発行直前とはいえ、規格の
品質(9000)と環境(14000)という2つの分
内容そのものの骨格は 1985 年には明確になって
野での、マネジメントシステムの認証制度の拡
いた。
大には2つの方向があった。
ISO 9000 シリーズが、20 年後のいま、功罪両
一つは、品質分野におけるセクタ固有の基準
面において、現在のような位置付けになってい
の作成である。セクタとは、製品・業種の相違
ることを誰が予想したであろうか。何と、ISO
を考慮するという意味で、品質を効果的・効率
9000 シリーズの初版(1987 年)では、この規格
的に作り込むためには分野固有の留意点を考慮
は認証目的に使わないと明言されていたのであ
した QMS 基準に基づいて、システムの設計、構
る。それが 1990 年代の国際的な品質システム認
築、運用、そして評価をすべきであるという考
証(審査登録)制度の拡大とともに、システム
え方によるものである。それはそれで、もっと
認証制度における基準文書と位置付けされた。
もなことである。だが、多様な制度が存在する
それが ISO 9000 シリーズの 1994 年改訂の本質
ことになり、登録される組織は ISO 9001 による
でもあった。
一般的な認証に加えて、複数のセクタ規格適合
そして 1996 年に ISO 14000 シリーズ規格(環
を求められるかもしれず、問題である。
境マネジメントシステム、EMS:Environment
も う 一 つ の 流 れ は、 品 質・ 環 境 以 外 の 様 々
境も加わったなどという軽いものではなかった。
Management System)が発行され、ISO 14001
なマネジメントへの拡大である。古くは OHS
に 基 づ く 組 織 の EMS の 認 証 制 度 が 始 ま っ た。
(Occupational Health and Safety:労働安全衛生)
、
Financials(財務)が議論され、はては Generic
*いいづか よしのり/東京大学大学院工学系研究科 教授
30
Management System(一般マネジメントシステ
2006 予防時報 227
ム)の認証制度の可能性までもが非公式に検討
・審査員の能力開発
されたこともある。
・審査員の評価
こうして、ISO 9000 の審議が始まった 1980 年
○認定機関
を起点にすれば、四半世紀を経て、国際的に民
・認定機関による認定審査の有効性
間の(途方もない)制度が普及することになった。
・認定審査員の能力
表1に、現在発行もしくは発行見込みの主な
○コンサルティング
マネジメントシステム規格を掲げておく。
・登録審査とコンサルテーションの分離
・コンサルタントの役割・力量
2.課題:マネジメントシステム認証制
度の信頼性の低下
こうした課題を抱えたままで、マネジメント
システム認証制度は大きな広がりを見せ、一方
ではいわゆる「負のスパイラル」という深刻な
ISO 9001、ISO 14001 を中心として、これらの
問題が指摘されている。すなわち、ビジネス上
MSS を基準文書とするマネジメントシステムの
の何らかの理由で、とにかくマネジメントシス
認証(審査登録)制度の運用において、様々な
テム認証を取得する必要があり、システム認証
課題が指摘されている。ここでは紙数の関係で
を形式的なパスポートととらえる考え方が主流
詳細を述べることはできないが、たとえば、以
になると、認証制度そのものの質の低下を招き、
下のような課題を挙げることができる。
結果的に制度そのものが崩壊するのではないか
○審査機関
という見方である。
・審査機関の組織運営能力
「負のスパイラル」が発生する原因の代表的な
・審査機関の組織運営の正当性・透明性
ものとしては、
・審査機関としての審査能力
・組織側の認証さえ取れれば良いという考え方
○審査員
・審査側の安く簡単に認証すれば儲かるという
・審査員の基礎的資質
考え方
表1 主なマネジメントシステム規格
【ISO 9000 関連】
ISO 9000(JIS Q 9000) 品質マネジメントシステム−基本及び用語
ISO 9001(JIS Q 9001) 品質マネジメントシステム−要求事項
ISO 9004(JIS Q 9004) 品質マネジメントシステム−パフォーマンス改善の指針
ISO/DIS 10001
品質マネジメント−顧客満足−行動規範に関する指針(2008 年発行予定)
ISO 10002(JIS Q 10002) 品質マネジメント−顧客満足−組織における苦情対応のための指針
ISO/DIS 10003 品質マネジメント−顧客満足−外部顧客紛争解決システムに関する指針(2008 年発行予
定)
ISO 10005(JIS Q 10005) 品質マネジメントシステム−品質計画書の指針
ISO 10006(JIS Q 10006) 品質マネジメントシステム−プロジェクトにおける品質マネジメントの指針
ISO 10007
品質マネジメントシステム−構成管理の指針
ISO 10012
計測マネジメントシステム−測定プロセス及び測定機器の要求事項
ISO/TR 10013
品質マネジメントシステムの文書類に関する指針
ISO 10014
品質マネジメント−財務上及び経済上の利益を実現するための指針
ISO 10015
品質マネジメント−教育訓練の指針
ISO/TR 10017
ISO 9001:2000 のための統計的手法に関する指針
ISO 10019(JIS Q 10019) 品質マネジメントシステムコンサルタントの選定及びそのサービスの利用のための指針
ISO 19011(JIS Q 19011) 品質及び / 又は環境マネジメントシステム監査のための指針
31
2006 予防時報 227
【ISO 14000 関連】
ISO 14001(JIS Q 14001) 環境マネジメントシステム−要求事項及び利用の手引
ISO 14004(JIS Q 14004) 環境マネジメントシステム−原則,システム及び支援技法の一般指針
ISO 14015(JIS Q 14015) 環境マネジメント−用地及び組織の環境アセスメント(EASO)
ISO 14020
環境ラベル及び宣言−一般原則
ISO 14021(JIS Q 14021) 環境ラベル及び宣言−自己宣言による環境主張(タイプⅡ環境ラベル表示)
ISO 14024(JIS Q 14024) 環境ラベル及び宣言−タイプⅠ環境ラベル表示−原則及び手続
ISO 14025
環境ラベル及び宣言−タイプⅢ環境宣言−原則及び手続(JIS 化予定)
ISO 14031(JIS Q 14031) 環境マネジメント−環境パフォーマンス評価−指針
ISO/TR 14032
環境マネジメント−環境パフォーマンス評価(EPE)の実施例
ISO 14040
環境マネジメント−ライフサイクルアセスメント−原則及び枠組み(JIS 化予定)
ISO 14044
環境マネジメント−ライフサイクルアセスメント−要求事項及び指針(JIS 化予定)
ISO/TR 14047
環境マネジメント−ライフサイクルインパクトアセスメント− ISO 14042 の適用の例(JIS
化予定)
ISO/TS 14048(JIS/TS Q 0009)環境マネジメント−ライフサイクルアセスメント−データ記述書式
ISO/TR 14049(JIS/TR Q 0004)環境マネジメント−ライフサイクルアセスメント−目的及び調査範囲の設定並びに
インベントリ分析の JIS Q 14041 に関する適用事例
ISO 14050(JIS Q 14050)
環境マネジメント−用語
ISO Guide 64(JIS Q 0064)製品規格に環境側面を導入するための指針
ISO/TR 14062(JIS/TR Q 0007)環境適合設計
ISO 14063
環境コミュニケーション(JIS 化予定)
ISO 14064-1
温室効果ガス−第1部:温室効果ガスの放出及び除去の定量化並びに報告のための組織レ
ベルでの手引付き仕様(JIS 化予定)
ISO 14064-2
温室効果ガス−第2部:温室効果ガスの放出又は除去強化の定量化,監視及び報告のため
のプロジェクトレベルでの手引付き仕様(JIS 化予定)
ISO 14064-3
温室効果ガス−第3部:温室効果ガス主張の妥当性確認及び検証のための手引付き仕様(JIS
化予定)
ISO 14065
温室効果ガス−温室効果ガスの妥当性確認及び検証機関の認定又は他の認知のための要求
事項(2007 年発行予定)
【セクタマネジメントシステム規格】
ISO/TS 16949
品質マネジメントシステム−自動車供給業者及び関連業務部門組織への ISO 9001:2000 適
用のための特別要求事項
ISO 13485(JIS Q 13485) 品質システム−医療用具− ISO 9001:1994(JIS Z 9901)を適用するための特別要求事項
ISO/TR 14969:2004
医療機器−品質マネジメントシステム− ISO 13485:2003 の適用のための指針
TL9000
品質マネジメントシステム要求事項
TL9000
品質マネジメントシステム測定法
JIS Q 9100
品質マネジメントシステム−航空宇宙−要求事項
【その他のマネジメントシステム/プロセス規格】
JIS Q 15001:2006
個人情報保護マネジメントシステム−要求事項
ISO/IEC 27001(JIS Q 27001)情報技術−セキュリティ技術−情報セキュリティマネジメントシステム−要求事項
ISO/IEC 17799(JIS Q 27002)情報技術−セキュリティ技術−情報セキュリティマネジメントの実践のための規範
ISO 22000
食品安全マネジメントシステム−フードチェーンの組織に対する要求事項
JIS Q 2001
リスクマネジメントシステム構築のための指針
ISO 25700
リスクマネジメントプロセス(2008 年発行予定)
BS 8800:2004
労働安全衛生マネジメントシステム−手引
OHSAS 18001
労働安全衛生マネジメントシステム−仕様
ISO 26000
社会的責任(審議中)
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2006 予防時報 227
・審査側における審査の質の低下
いう答えが返ってきそうだが、そうではない。
・質の良い審査員の採用・維持・確保が困難になる
ISO 9000 の信頼性の低下の議論のなかで「考え
・組織側からの審査コストに見合う利益が必ずし
なければならないものが一つ抜けている。それは
も得られていないという評価
エンドユーザー、
消費者である」との指摘がある。
などが考えられる。
登録組織の顧客である。私はそれを「社会がお客
質の良い審査制度は、良いものは合格、悪い
様」と表現していた。
ものは不合格と、正確に、効率的に判断する制
別の視点で考えてみる。監査には「クライア
度であろう。ところが、現在運用されているマ
ント」という概念がある。クライアントが「ここ
ネジメントシステム認証制度においては、審査
を監査してほしい」と監査チームに依頼し、そ
される組織が費用を支払い、審査機関が受け取っ
れを受けて監査チームがプログラムを作り、監
て審査するという枠組みになっている。免状さ
査を行い、その報告をクライアントに行うとい
え取れれば良いと思っている組織にとっては、
う枠組みである。それでは、第三者機関が審査を
安くて簡単で必ず合格させてくれる審査機関が
行う ISO 9000 の認証制度においてクライアント
好ましい。審査機関にしても、しっかりした審
は誰なのか。登録を望み、審査してほしいと言っ
査をしなくても良いので、料金が多少安くても
ている組織だろうか。そうではなく、社会だと考
儲けがでることは間違いない。
えるべきである。社会こそが、
この制度において、
審査機関を通じて審査チームに対して「ここを審
3.意義:社会制度としての MSS の意義
査してほしい」と依頼しているクライアントと考
えるべきである。
こうした本質的問題を内在する制度において、
さてそれでは、良い認証制度とはどんな制度
登録組織として、あるいはそれらの組織から製
だろうか。早く安く簡単に登録するのが、良い制
品・サービスを買う一般市民として、マネジメ
度と言えるのだろうか。組織の経営環境を考慮し
ントシステム認証制度の意義について考えてみ
て、経営に直接役に立つ指摘をする審査が、質の
たい。一般的に論じても良いのだが、議論を簡
良い審査と言えるのだろうか。ISO 9001 という
単にするために、ISO 9000(品質)に限定して
基準に照らして、これに適合していれば合格、適
考察する。
合していないものは不合格という、公正な判断を
ISO 9000 には2つの意味が含まれる。一つは
する認証制度こそ、質が良いと言うべきである。
ISO/TC176 が検討し発行している ISO 9001 規
そして登録組織に何か問題が起きたらすぐ調べ
格、もしくはその規格が提示する QMS モデルと
に行き、登録を停止する、継続する、ということ
いう意味である。もう一つは、そのモデルを基
を静々粛々と行う、それがこの制度の質というも
準に使って認証を行う社会制度という意味であ
のである。
る。これらを総称して「ISO 9000」という言い
様々な不祥事が報道されるなか、ISO 9000 の
方がされている。
仕組みは、規制、法律、政策などの社会制度と
システム認証制度において、審査機関と審査
どう役割分担すべきかという視点から、それぞ
を受ける組織の間の関係に目が行きがちである
れの固有の役割を考えなければならない。この
が、ISO 9000 は、組織のマネジメントシステム
制度において、認定機関である(財)日本適合性
を何らかの基準に照らして評価し登録するとい
認定協会(JAB)は、法律によって強制的な調査
う枠組みであり、ある種の社会制度だと言える。
権・捜査権を担保されているわけではないので、
民間の任意の制度であるが、この社会で何らか
制度の正統性の維持にはある種の限界がある。
の機能を果たしている制度である。
この制度はシステムを審査しているので、サン
この制度の顧客は誰であろうか。登録組織と
プリングで確認せざるを得ない。システムから生
33
2006 予防時報 227
み出されるあらゆる製品・サービスの質をどこま
節で考察する。
で保証・説明できるのかという問題がある。
「ISO
9000 を取っていれば、
ISO 14000 をやっていれば、
4.活用:MSS の有効活用
アウトプットまで全部良いだろう」という普通
の人々に対し、
「そうではない」と言ったところ
組織の立場で ISO 9001 を有効活用するにはど
で本当に理解してもらえるのかという問題があ
うしたら良いか。有効活用というからには、経
る。どこまでの役割を果たしているのかを説明
営に役立つように、ISO 9001 +αとして使わな
した上で、他の制度と相まって良質な製品・サー
ければならない。
ビスが世の中に流通することをめざす制度なの
経営において ISO 9001 を使うには、
「経営」
「品
である。
質」
「ISO 9001」という三つの段階を認識する必
その意味では冷めた制度と言えなくもないが、
要がある。ISO 9001 は品質に関するマネジメン
一方で、品質に関する考え方、マネジメントシ
トシステムモデルだから、まず「経営」におい
ステムに関する考え方の底上げにつながる制度
て「品質」がどう位置付けられるか認識する必
でもある。ある種のインセンティブとして、社
要がある。
会全体の産業競争力の向上に役立つという役割
品質は広義に解釈すると、経営のほぼすべて
も担っている。
をカバーする。組織が存在するのは、お客様に
さて、適用する組織にとってどのような意義
製品・サービスを提供し受け入れてもらうため
があるのだろうか。まず、認証されることによっ
である。そのためのマネジメントシステムにお
て、商売上有利になるという価値が生まれるか
いて、品質が中心に位置していることは疑う余
もしれない。認証されること自体ではなく、制
地がない。
「安く、早く、たくさん作ろう」とい
度で用いられる品質マネジメントシステムのモ
う考えに比べると、
「お客様に喜んでいただける
デルを活用することで、組織の目的を達成する
良いものを提供しよう」という「質」の根元性
という価値が得られる。登録という目的に向かっ
からいっても、非常に広範囲をカバーしている
て組織体を動かすこと自体に、ある種の組織改
ことが分かる。
革の運動論の経営ツールとしての価値がある。
バランスト・スコアカード(財務偏重を改め
国際的な制度として確立しているので、1回
た新たな業績評価システム)でも、最終的には
の認証・登録で済むことや、顧客の拡大、強制
財務的な指標が重要かもしれないが、そのため
分野での適用への対応、国際的に通用するなど
にはお客様に提供する製品・サービスが受け入
の意義を挙げることができ、登録済みの組織と
れられなければならず、そのためにシステムや
の取引を考えると、調達、購買において、供給
プロセス、組織の学習能力、リソースを整備す
者の能力を測る上で、効率向上が期待できる。
ることが必要であるとモデル化している。その
一方で、ISO 9001 モデルと競争力について考
意味で、顧客志向を中心思想として、品質に焦
えると、ISO 9001 のモデルは最小限の要求事項
点を当てることこそが経営の要諦であるので、
であるから、競争力のある製品・サービスを提
それが品質に関わるマネジメントシステムモデ
供しようとすれば、モデルを拡大・深化させて
ルということだけで、ISO 9001 は経営に活用で
取り組まなければならないだろう。ISO 9001 で
きると言える。
要求されている QMS の原理、考え方、方法論、
次に「品質」において「ISO 9001 モデル」が
システムモデルと、本当に強い立派な製品、良
どう位置付けられるかを認識する必要がある。
質な製品・サービスを提供できる組織の経営管
ISO 9001 モデルだけで、品質経営に必要なすべ
理との間には、ギャップがあることを認識して
ての要素がカバーされているわけではなく、ISO
おかなければならない。このことについては次
9001 の品質マネジメント全体に占める位置はか
34
2006 予防時報 227
なり低い。それでも、国際標準化されたモデル
である。本当に強くなるために、マネジメント
であり、販売にも調達にも重要な役割を果たす。
システムに埋め込まなければいけないコア技術、
ISO 9001 の要求事項が限定されていることを承
知識が何であるかを把握しておく必要がある。
知し、これを経営の基盤にし、その上に適用組
そして、マネジメントシステムを充実すること
織に相応しい独自のマネジメントシステムを構
の効用と限界を理解しておかねばならない。
築することが、経営において ISO 9001 を活用す
第三の視点は「パフォーマンス」である。ISO
る際に持つべき重要な視点だと言える。
9000 ではシステム要素の実施状況が審査される。
顧客に受け入れられる良質の製品・サービス
たとえば、市場クレームによる損失が売上の 5%
を提供する総合的能力を「競争力」と理解する
を超えるような企業は倒産すると思うが、ISO
ことにして、その競争力のために ISO 9001 をど
9000 ではそうした状況自体を理由に認証しない
う活用すれば良いか考えたい。競争力というと、
ということはない。もちろん、そうした状況に
技術の先端性、圧倒的な規模や速度などを想起
なっている原因があり、その原因となっている
するかもしれないが、広い視野を持った方が良
システム要素の不適合が指摘され認証されるこ
い。競争力とは、あるビジネスドメイン(事業
とはないと思うが、パフォーマンスそのものが
領域)において、どの能力が強ければ優位に立
評価の対象になっているわけではない。要は、
てるかという視点での能力である。すると、あ
原因系や手段系の基準で審査しているというこ
る業界、ある分野、ある時代において、基盤がしっ
とである。したがって、ISO 9001 の要求事項に
かりしていること自体が強みの源泉であること
対して「これを実施することは、わが社、わが
はいくらでもありうる。他には、たとえば、顧
部門にどのような意味があるのか」と、目的志
客志向、製品・サービスの実現能力である技術力、
向で考える必要があり、これによって有効な使
価格競争力のような総合技術力・マネジメント
い方が見えてくる。
力、人材、あるいは組織風土・文化や精神構造、
ISO 9001 を 真 に 有 効 活 用 し よ う と 思 え ば、
こうしたものが強さの要因であるような分野も
ISO 9001 を基礎に競争優位のための QMS の設
ある。
計・構築・運用を考えるべきである。そのため
こうした意味での競争力の向上を目的として
には、まず、製品・サービスを通してお客様に
ISO 9001 を活用するには、三つの視点が重要に
どんな価値を提供しているだろうかと考える。
なる。
次にそのような価値を提供するためにどのよう
第一は「要求事項への適合」から「組織能力
な能力が必要か考える。そして、自社の特徴を
の向上」へというスタンスである。要求されて
踏まえてある勝ちパターン、勝利のシナリオを
いる MSS への適合だけでなく、組織能力をいか
想定して、そうなるためのどのような能力が決
に向上させるかという視点である。そのために、
め手になるのか考える。これが競争優位要因と
目的志向が必要であり、そのドメインでの組織
言われるものである。この強くなければならな
のあるべき姿を描くことが重要である。他者が
いと認識できた能力を、システムのどの部分に、
定めた基準への適合ではなく、こうあるべきと
リソースとして、手順として、あるいは知識ベー
自分で価値基準を決めることが必要である。
ス・技術ベースとして組み込むかを考えて、ど
第二の視点は「技術と管理」である。ISO 9000
のようなマネジメントシステムを構築すべきか
は、マネジメントシステムを審査する。しかし、
考察する。ISO 9001 への適合をめざすことと、
競争力に一番重要なのは、その分野固有の技術
競争優位のためにどのような QMS が必要かを考
である。その技術を活かすためのマネジメント
えることとの差を考察し、ISO 9001 を否定するこ
も重要であり、固有技術を活かすための仕組み
となくその上に自らの QMS を構築すべきである。
の評価をするのがマネジメントシステムの審査
35
2006 予防時報 227
防災基礎講座■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
自動車火災における
自動車の燃焼性状
岡本 勝弘*
1.はじめに
映画やテレビドラマで、崖から転落した自動車
が轟音とともに爆発するシーンをしばしば見かけ
ることがある。これは、燃料ガソリンが着火する
と爆発するというイメージからくるものと考えら
れるが、実際にこのようなシチュエーションで、
自動車が爆発するとは考えにくい。なぜならば、
ガソリンが爆発するためには、濃度が燃焼範囲と
呼ばれる濃度範囲(約 1.4 ∼ 7.6vol%)にあるガソ
リン蒸気と空気との混合気体(可燃性混合気)が、
閉鎖空間内に形成されなければならないためで
あって、崖下に転落直後の自動車内部にガソリン
蒸気の可燃性混合気が形成されているとは考えら
れないためである。
もちろん、漏出したガソリンが揮発してエンジ
ンルームや車室内部に滞留するだけの時間的余裕
があった後の着火であれば、爆発的燃焼を起こす
可能性を否定するわけではないが、この場合も放
映されているシーンよりは、かなり小規模な爆発
にとどまるものと思われる。また、転落直後に自
動車が燃え出した場合においても、たとえ燃料タ
ンクにガソリンを満載していても、燃料タンク内
部は、ガソリン蒸気に満ちあふれた空気が足りな
*おかもと かつひろ/警察庁科学警察研究所法科学
第二部火災研究室研究員
い酸欠の状態であるため、タンクから漏れ出した
ガソリンが燃焼するだけであって、燃料タンク内
のガソリンが燃焼して、タンクが爆発するといっ
た現象は起こりえない。
このように、自動車の燃焼性状について、意外
によく知られていない点もあると感じさせられる
ことがある。そこで、筆者らが実施した燃焼実験
の結果に触れながら、自動車の燃焼性状について
述べさせていただくこととする。
なお、本文中の意見にわたる部分は筆者の私見
であることをあらかじめお断りしておく。
2.自動車火災の現状 1)
平成 17 年中の車両火災(鉄道車両も含む)の
総発生件数は 6,630 件であり、平成 13 年をピーク
に、年々わずかながら減少傾向にある。また、出
火原因別に見ると、放火(放火の疑いも含む)に
よ る も の が 1,496 件(22.6 %) で あ り、 次 い で、
排気管 738 件(11.1%)
、交通機関内配線 688 件
(10.4%)
、タバコ 250 件(3.8%)衝突の火花 220
件(3.3%)の順となっている。このように、車両
火災においても、火災全体の傾向と同様、放火あ
るいは放火の疑いによるものが最も多くなってお
り、これに対し、衝突事故後に火災となるケース
は思いのほか少ないことが分かる。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
36
2006 予防時報 227
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■防災基礎講座
3.自動車火災の発生原因 2)
3)衝突事故による火災
前述したように、自動車火災の発生原因として
出した燃料油(主にガソリン)に、路面と車体の
は、放火あるいはその疑いが最も多いが、それ以
摩擦火花や、電装品の破損部位における電気火花
外にも様々な要因により、自動車火災は発生する。
などが引火することによって、火災が発生する。
衝突事故が発生した場合にも、燃料系統から漏
衝突事故により、燃料タンクが破損して、ガソ
1)放火
リンが漏洩した場合には、自動車下部に大きなガ
自動車は、バンパー、泥よけ、タイヤなど車外
ソリンプール火炎を形成することから、通常の自
に露出した樹脂部品が存在し、これらに、ライター
動車火災よりも、火災の拡大が急速になる。
や着火した紙片等の小規模な火源で着火すること
によって、火災に至ることもある。シートカバー
4)その他
への着火によっても、自動車に燃え移るケースが
上記以外にも、タバコの火の不始末により、車
あり、最近では、難燃加工されたシートカバーも
室内から出火したケースや、タイヤのパンクに気
販売されている。また、自動車への着火にガソリ
付かず走行し、路面とホイールの摩擦熱により、
ンといった燃料油を使用される場合もある。
タイヤが着火し、火災となったケースもある。
近年では、保険金詐取を目的として、事故や故
障を装い、車室やエンジンルームといった自動車
4.自動車の燃焼性状
内部に所有者自らが放火する悪質なケースも見ら
れる。
自動車火災の出火原因は、多種多様に分類され
ることを述べてきたが、出火場所や着火源の種類
2)自動車自体に起因して発生する火災
が異なれば、その後の火災の拡大といった自動車
燃料油や各種オイル類が、取り付け部の不備や
燃焼性状に違いが現れることが予想される。した
緩みから漏出し、充満した燃料蒸気や漏出したオ
がって、様々な条件下における自動車火災がどの
イルが、電気火花や排気管の熱により着火し、火
ように(時間・経路等)拡大していくかという情
災が発生する(燃料・オイル系統火災)
。
報を事前に持ち合わせていれば、目撃証言などか
また、整備・点検時に使用したウエスが置き忘
ら得られる実際の自動車火災における火災拡大の
れられ、排気管等の高温部に接触して火災となる
状況と照らし合わせることにより出火場所を推定
ことや、飲酒後に車内で寝込んでしまい、エンジ
することができ、出火原因の特定に役立てること
ンの空ぶかしによる排気管の過熱で周辺の可燃物
ができる。筆者らは、実車を用いて、出火場所、
に着火するというように、排気管系統からも火災
車室窓の開閉状態、着火源の種類を変えた自動車
に至ることもある(排気管系統火災)
。
燃焼実験を実施している。
自動車の各部位には、電気配線が配線されてい
以下に、各種要因が自動車の燃焼性状に与える
る。これら電気配線に、エンジンの熱や走行時の
影響について紹介する。
振動により、被覆の損傷、あるいは接続部の緩み
が発生し、短絡や発熱によって配線被覆や周辺可
1)出火場所による影響
燃物に着火することによっても、火災が発生する
自動車は、金属製の車体の中に大量の可燃物が
(電気系統火災)
。
収納された、カプセル状の構造を有している。そ
のため、車体構造で区画された領域内での火炎の
拡大は短時間で起こるが、他の領域へ火炎が伝播
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するためにはある程度の時間を要するといった、
には、車室内が盛火となるためには、最短でも 50
特徴的な燃焼性状を示す。4 ドアセダンの燃焼は
分が必要であり、エンジンルーム内の可燃物が燃
図1に示すように、エンジンルーム、車室、車両
焼した際の火災熱では車室窓を破損できなかった
後部(燃料ガソリンを含む)の 3 つの区画に分類
ために、車室内部に火炎が伝播せず、立ち消えた
することができる。
ケースもあった。
自動車火災は、燃料系統や排気管系統からの出
車室外から、出火したケースであっても、車室
火、あるいは放火など、エンジンルーム内や車両
窓が開いている場合には、窓開口部から供給され
後部といった車室外から出火するケースが多い。
る空気により、車室内の燃焼の拡大が促進される
このように車室外から出火した場合には、出火し
ために、車室外から車室内部への火炎の伝播はス
た区画からまず車室内に火炎が伝播し、それから
ムーズとなり、着火後 25 分程度で車室内は盛火
残りの区画へ火災が拡大することになる。車室窓
となり、車両全体が燃焼するまでの時間にも短縮
が全て閉まっている通常の条件では、車室内が閉
が見られる。救助や乗員の避難のために、出火後
鎖空間であるために、車室内に火炎が伝播すると、
に窓ガラスを破損したケースや、ドアを開放した
車室内の酸素濃度が低下して、酸欠状態となり、
ケースが、これに該当する。
車室内での燃焼の継続が困難となる。そのため、
放火やタバコの火の不始末などで、車室内部か
車室内部へ火炎が伝播するには、車室窓が火災熱
ら出火したケースでは、車室内で立ち上がった火
で破損し、車室内への空気の供給が十分になされ
炎が他の区画への伝播することは、開放空間への
る必要がある。したがって、車室内に火炎が伝播
火炎伝播となるため、極めてスムーズに伝播が起
してから、車室窓が破損して車室内が盛火となる
こる。この場合、車室内が盛火となってから約 10
ためには、少なくとも 10 分程度の時間を要する。
分でエンジンルームから火炎が立ち上がり、短時
車両後部から出火した場合は、燃料タンクから
間のうちに車両全体に火炎が拡大し、1 時間以内
漏出したガソリンの火炎の燃焼熱によって車室窓
に車両が全焼している。固形燃料を使用して 4 ド
の破損がより起こりやすく、エンジンルームから
アセダンの各部位に着火した各実験における各区
出火した場合と比べ、車室内への火炎の伝播が早
画の燃焼時間帯を図2に示す。
い傾向がある。この場合、着火後車室内が盛火と
自動車火災においては、無人のはずの自動車か
なるまでに要した時間は、最短で 27 分であった。
ら、ホーンが鳴動したり、各種ライトが点灯した
これに対し、エンジンルームから出火した場合
り、ワイパーが作動したりすることがしばしばあ
る。これは、これらの装置のスイッチあるいはそ
の配線が火災熱により短絡し、装置が作動するた
めである。このような現象が起こるためには、こ
れらがぎ装されている部位が燃焼した時点におい
て、バッテリーの性能が保持されている必要があ
る。これらのスイッチの多くは運転席付近に配置
されていることが多いことから、車室内や車両後
部から出火した場合は、バッテリーが焼損する前
に車室内が燃焼し、ホーン鳴動や各種ライトの点
灯といった現象が起こる可能性がある。しかし、
エンジンルームから出火した場合には、火災初期
図1 4 ドアセダン燃焼時における燃焼区画
段階でバッテリーが破損するため、スイッチやそ
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の配線の短絡により各種装置が作動する現象は起こ
が小さく、密閉度が高いことから、車室内から
りにくい。
出火した場合において、車室内部の燃焼が継続、
拡大するためには、外部からの空気の流入が必
2)車室窓の開閉状態による影響
要不可欠である。
自動車の車室内は、可燃物量に対する空間容積
車室窓が閉鎖状態の車室内に着火した場合に
図2 4 ドアセダン燃焼時における各区画の燃焼時間帯
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は、火炎が立ち上がった直後に、酸素濃度が 14%
ンに着火したケースを想定して、自動車下部の床
程度まで低下し、着火から約 5 分後に立ち消えた。
面にヘプタン(ガソリンの成分の一つである炭化
車室窓を約 2cm 開けて着火すると、車室内への
水素系有機溶媒)を入れたオイルパンを設置して、
空気の流入量が増え、車室内の酸素濃度は、車室
ヘプタンに着火していった実験の報告がある 3)。
内の燃焼に合わせて上昇と下降を繰り返すように
これらの実験では、着火直後に自動車全体がガソ
なったが、着火後約 1 時間で立ち消えた。
リン火炎に包まれて、着火後 10 分以内に自動車
窓開口部を約 10cm まで開くと、車室内の燃焼
の燃焼は盛火に至っており、自動車全体への急速
は、14 ∼ 17%の低酸素濃度領域で継続し、約 1
な火災の拡大が見られた。しかし、これらの実験
時間後にフロントガラスが火災熱で破損すること
は、いずれも車室窓を開けた状態で行われており、
によって、徐々に車室内の火勢が増した。その後、
車室窓が閉鎖状態であれば、このような急激な火
車室内の燃焼は盛火となり、火炎は車両全体に拡
災の拡大は起こらないと思われる。
大した。
これらは実験室内で行った実験結果の一つの例
4)車種による影響
にすぎない。実際の火災では、風の有無、車種、
1.5 ボックスワゴンの前輪タイヤハウス、あるい
着火方法などが異なるため、必ずしも同じ結果に
は、後輪タイヤハウスに着火する燃焼実験も行っ
なるとは言えない。しかし、前述の結果から、車
た。1.5 ボックスワゴンの燃焼も、4 ドアセダンと
室内から着火した火炎が継続的に燃焼し、車室外
同様、車両前部(フロントノーズ内)
、車室、燃
に拡大していくためには、空気が流入するための
料タンクを含む車両後部の 3 つに区画され、まず
開口部が必要であることが分かる。つまり、窓や
着火部位に火炎が拡大した後、車室内に伝播し、
ドアの隙間だけでは、車室内燃焼への空気の供給
次いで残りの区画に拡大した。着火部位の火炎は、
が不十分であるため、車室内の燃焼は、酸欠によ
火災熱により車室窓が破損してから車室内に拡大
り立ち消えてしまいやすく、車室内が閉鎖状態で
した。
ある場合には、車室内からの出火によって、車室
1.5 ボックスワゴンは車室内容積が 4 ドアセダン
外部に火災が拡大しにくいということが一般的に
に比べて大きいことから、車室外の火炎が車室内
言える。また、開口部の大きさが車室内の燃焼に
に伝播して拡大するまでの時間に違いが現れるこ
大きな影響を及ぼすことから、車室窓の開閉状態
とが予想されたが、いずれの条件においても、4
によって、車室外への火炎伝播に要する時間に大
ドアセダンの場合と、燃焼時間及び車両全体への
きな差異が現れることに注意しなければならない。
火災拡大経路に大きな違いは見られなかった。
3)着火源の種類による影響
5.自動車火災の危険性
車室内に着火した実験では、放火を想定して車
室内に灯油を散布して着火した実験と、タバコや
自動車は、内装材、タイヤ、配線被覆、燃料といっ
ライターといった小規模な火源を想定した少量の
た大量の可燃物が車体内にコンパクトに収納され
固形燃料により着火した実験を行っている。これ
た構造をとっていることから、火災時には、これ
らの実験では、車室内で火炎が立ち上がるまでの
ら大量の可燃物が短時間で燃焼し、大きな火炎を
時間にわずかに差が見られたものの、すぐに車室
形成する。そのため、自動車火災においては、燃
内は酸欠状態に移行するために、着火源の違いに
焼自動車と隣接する建物や自動車等の周辺可燃物
よる燃焼性状の違いはほとんど見られなかった。
への延焼の危険性が生じる。
衝突事故により燃料タンクから漏洩したガソリ
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1)自動車火災における可燃物
続するチューブや給油栓といった非金属部品が火
自動車内の可燃物の重量構成比は、総重量の 2
災により焼損した箇所から起こることとなる。こ
割弱であるが、自動車の高機能化に伴い、合成樹
れに対し、樹脂製タンクはタンク自体が火災熱に
脂製品の重量構成比は増加傾向にある。したがっ
より溶融、焼損して、タンク内に残存するガソ
て、自動車内の可燃物重量は年々増加し、可燃物
リンが自動車下部に一気に漏出して燃焼する。こ
としての自動車の危険性は高まっていると言える。
のため、樹脂製燃料タンクが装備されている自動
自動車可燃物の中で発熱量が高いものとしては、
車が燃焼した場合には、燃料の自動車火災の拡大
燃料タンク内の液体燃料や、バンパーや内装材に
に対する寄与が大きくなり、火災の拡大が急速に
使用されるポリプロピレン、タイヤの主材料であ
なって、自動車火災の危険性がより高まることに
るゴムなどが挙げられるが、このうち液体燃料は、
注意しなければならない。
発熱量だけでなく発熱速度が極めて高いことから、
火災時における自動車の燃焼性状に与える影響が
2)周辺可燃物への延焼危険性
最も大きいと言える。このことから、燃料タンク
自動車火災においては、金属製の車体の中で燃
内の燃料積載量によって、自動車火災の危険性に
焼した可燃物の火炎は主に車室窓等の開口部から
は大きな違いが現れることが予想される。
噴出し、隣接する建物や自動車などに対して熱的
自動車の燃料としては、ガソリンエンジンに使
な影響を及ぼし、これらに対して延焼する危険性
用されるガソリンとディーゼルエンジンに使用さ
がある。我々が行った実験例では、燃焼自動車か
れる軽油に大別される。ガソリン、軽油ともに、
ら 50cm 離れた位置の放射熱流束は平均で 25 ∼
発熱量はおよそ 42 ∼ 45MJ/kg であるが、常温で
40kW/m 程度であり、また接炎も起こることか
も引火性の高いガソリンは、蒸気圧が軽油に比べ
ら、50cm 以内の可燃物への着火可能性は極めて
てかなり大きく、火災時における危険性はより高
高かった。また 1m 離れた位置の放射熱流束は平
いと言える。
均で 10 ∼ 20kW/m 程度と小さかった。
衝突事故により、燃料タンクが破損し、燃料が
しかし、これらは我々が無風の実験室で測定し
タンクから漏洩した場合以外は、自動車は燃料が
た結果の一例である。過去に屋外で行われた自動
タンク内に入っている状態で燃焼する。冒頭で述
車火災実験の中には、1m 離れた隣接車両に延焼
べたとおり、燃料タンク内は燃料蒸気が濃すぎる
したという報告もある。実際の火災では、風に煽
酸素不足の状態であるため、燃料が燃焼すること
られて火炎が周辺可燃物方向へ伸びたり、燃料が
ができず、外部からの加熱によりタンク外へ漏出
路面に流出したりする可能性についても考慮しな
した燃料だけが燃焼する。そのため、燃料タンク
ければならないであろう。
2
2
内の燃料は、開放空間で燃料を燃焼させた場合に
比べ長時間かけて燃焼し、比較的穏やかな燃焼性
状を示す。
近年、自動車重量の軽減、あるいは車体形状に
合わせた燃料タンクの成型加工の容易さのために、
樹脂製の燃料タンクの普及率が高まってきている。
(参考文献)
1)総務省消防庁
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/180314.pdf
2)「監修 東京消防庁 新火災調査教本 第 4 巻 第 1
部 車両火災編」,財団法人 東京防災指導協会(2000)
金属製タンクは、自動車燃焼火炎により焼損する
3)J. Mangs et al.; Characterization of Fire Behavior of a
ことなく、また、火災熱により周囲から加熱され
Burning Passenger Car, Part1; Car Fire Experiments
てタンク内の燃料蒸気圧が上昇しても破裂しない。
Fire Safety Journal, VOL.23, 17-35 (1994)
したがって、燃料の漏洩は、燃料管とタンクを接
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
41
2006 予防時報 227
地震災害とエレベーター
藤田 聡*
1.はじめに
2.昇降機の耐震設計
エレベーターは、その機能を実現・具体化する
世界有数の地震国である我が国では、原子力発
「技術」が、日常生活において「人」に触れる形
電所などの重要な産業施設や高層建物をはじめと
で使われるという「生活に密接」した技術である。
して、各々に適した耐震設計基準/指針が制定さ
「あって当たり前」
、
「ちゃんと機能して当たり前」
、
れ、最低限それらで規定されている地震力に対し
「安全で当たり前」の技術として広く理解されて
て、建物等の地震時健全性を確保すべく設計され
おり、我々はその有益性を普段意識することはな
ている。
い。
一般的に建築設備として建物内に設置されるエ
都市への人口集中により建物の高層化が進む
レベーターは、
「昇降機耐震設計・施行指針(昇
中、
人々の縦方向の動線確保の観点から、
エレベー
降機技術基準の解説 2002 年版編集:国土交通省
ターは必要不可欠な建築設備として認識されてい
住宅局建築指導課、
(財)日本建築設備・昇降機
る。現在、国内では約 70 万台のエレベーターが
センター 、
(社)日本エレベータ協会)
」で規定
設置されており、一日に延べ約6億人が利用して
される耐震性能を満足すべく設計がなされる。耐
いると言われている。簡単に言えば、少なくとも
震設計法には、対象とする施設/建物の重要度に
ビルの数だけエレベーターは存在しており、国民
応じて種々の設計法が適用されるが、昇降機設備
一人当たり一日 5 回は利用するわけである。した
の耐震設計には、基本的に「静的設計」手法が適
がって、
「安全」
、
「安心」
、
「快適」
、
「信頼」といっ
用される。ここでは、本来動的な事象である地震
たような事項が、人と触れる機会の多いこのエレ
応答により当該設備に生じる、本来動的な地震力
ベーター技術の評価に対するキーワードとなる。
を静的なものとして取り扱い、設計するものであ
さて、昨年 7 月に発生した千葉県北西部を震源
る。建物の振動性状を加味して、地震力を静的な
とする地震では、都内においても多くのエレベー
力に置き換える「修正震度法」の考え方は導入さ
ターが停止し、また閉じ込め事故も発生したこと
れているものの、
基本的には
「動的設計」
ではない。
は記憶に新しい。ここでは、当該地震におけるエ
動的地震応答解析が実施される超高層建物に昇降
レベーターの被害の状況、現在の昇降機耐震設計
機が設置される場合には、必要とされる各部の床
の考え方、そして最新の短期地震予知技術とも捉
応答加速度は与えられるわけであるから、今後は
えることのできる緊急地震速報のエレベーター耐
より合理的な耐震設計手法の確立が望まれる。
震技術への適用等について紹介する。
また、現在、遠地で発生した地震の(やや)長
*ふじた さとし/東京電機大学理事・工学部長
/機械工学科教授
42
周期成分(ゆっくりと揺れる動き)が、関東や大
阪といった堆積盆地である平野部では増幅され、
2006 予防時報 227
超高層ビルや石油タンクなどで大きな揺れを生じ
じて運転を休止した場合は、実際にはエレベー
る現象が問題となっている。2004 年 10 月に発生
ターに損傷がない場合でも、安全性に鑑みて技術
した新潟県中越地震では、六本木ヒルズ森タワー
者の点検を受けるまで復帰しない仕組みとなって
は長周期地震動に共振し、ゆっくりと大きく揺れ
いる。しかしながら、地震時管制運転システムが
た。その際、エレベーターを吊るす主策(メイン
搭載されていないエレベーターの場合、地震時も
ケーブル)も大きく揺れ損傷した。これまでの P
そのまま運転を続けるため、強い揺れによる衝撃
波センサー、S 波センサーといった地震安全装置
で安全装置が作動して階と階の間に緊急停止する
は、基本的には加速度検知センサー(揺れ方の激
など、
「閉じ込め」が生じやすい。
しさを計測)であり、比較的小さな揺れ(震度 3
この地震時管制運転システムは設置が義務づけ
程度)や、揺れ幅は大きいが激しさ(加速度)は
られていなかったが、国土交通大臣の諮問機関と
小さい、いわゆるゆったりとした揺れには作動し
して設置した「住宅・建築物の地震防災推進会議」
ないことが多い。各メーカーではこれに対応する
は、千葉県北西部を震源とする地震が発生する以
システムを開発しており、一部ではすでに導入が
前の昨年 6 月、エレベーターの閉じ込め防止策に
始まった。
関する提言をまとめ、これを受けた国土交通省で
このように地震時に昇降路・昇降機は設置され
も、都市型震災への対策として地震時管制運転シ
る建物の動きに支配されるため、揺れの激しさの
ステムの設置を義務化する方針を固めた。
みに注目した「力」ベースとしての地震力を考慮
するだけではなく、今後は「変位(形態)
」制限
4.地震による閉じ込め
の考慮を取り入れることで、より合理的・現実的
な耐震設計ができるのではなかろうか。
3で述べたように、昨年 7 月に発生した千葉
県北西部を震源とする地震では都内においても
3.地震時管制運転システム
多くのエレベーターが停止し、また閉じ込め事
故も発生した。ここでは、より詳細にこの地震
昨年 7 月に発生した千葉県北西部を震源とする
でのエレベーターの状況を紹介する。
地震では、都内においても多くのエレベーターが
停止し、また閉じ込め事故も発生したことは記憶
に新しい。
(社)日本エレベータ協会(http://ww
w.n-elekyo.or.jp/)の発表によれば、エレベーター
総数の約 9 割を保守管理している保守管理大手五
社の調査の結果、63%強のエレベーターには「地
震時管制運転システム」が設置されていた。この
地震時管制運転システムとは、地震時の振動を感
知して自動的に最寄階に停止させるシステムで、
地震の本格的な揺れの前の初期微動を検知し(P
波センサー)
、大きな揺れが生じる(S 波の到達)
前に最寄階に停止させるタイプが主流となってい
る。
地震がエレベーターに損傷を与えるおそれのな
いような軽微な揺れだった場合は、一定時間が経
過した後、通常の運転に自動的に復帰することに
なっているが、強い揺れ(震度 4 以上程度)を感
表1 千葉県北西部を震源とする地震
発生時刻 2005
2005 年 7 月 23 日 16:34:56.3 千葉県北西部 (35 ゜ 34.9'N,
震 源
140 ゜ 8.3'E)、深さ 73km
マグニチュード M:6.0
震度 5 強の地域
東京都 東京足立区伊興
震度 5 弱の地域
東京都 大田区本羽田、江戸川区船堀
埼玉県 草加市高砂、鳩ケ谷市三ツ和、八潮
市中央、三郷市幸房、宮代町笠原
千葉県 市川市八幡 、船橋市湊町 、浦安市
猫実 、木更津市潮見 、木更津市役
所 、鋸南町下佐久間
神奈川県 横浜神奈川区神大寺、横浜神奈川区
白幡上町、横浜中区山手町、横浜中
区山田町、横浜中区山下町、横浜港
北区日吉本町、横浜緑区白山町、川
崎川崎区宮前町、川崎川崎区中島、
川崎幸区戸手本町
43
2006 予防時報 227
表1は 2005 年 7 月 23 日の午後 4 時半過ぎに首
京都、千葉県、埼玉県、神奈川県 ) の合計]
。
都圏を襲った、千葉県北西部を震源とする地震
国土交通省は、こうした「閉じ込め事故」が
の概要である。マグニチュード 6、震源の深さは
極めて深刻な安全上の問題であると捉え、東京大
73km であり、東京都足立区伊興で震度 5 強が計
学久保教授を部会長とする「社会資本整備審議
測されたのをはじめ、表に示す通り多くの地点で
会建築分科会建築物等事故防止対策部会」を設置
震度 5 弱が計測された。筆者自身も同時刻には都
した。以下に、ここで取りまとめられた「エレ
内におり、
(ガタガタと揺れる)激しい振動に直
ベータの停止・閉じ込め等に関する論点」につ
下型地震で震源は近いと推察していた。
いて紹介する(参考:国土交通省ホームページ
表2は 2005 年 7 月 29 日、国土交通省住宅局建
http://www.mlit.go.jp/)
。
築指導課が発表した、本地震におけるエレベー
ターの停止・閉じ込めを示したものである。今
回の地震で停止したエレベーターは、保守管理大
手五社の合計で約 64,000 台あり、その停止状況
はほぼ全て先に述べた地震時管制運転装置が作動
したものであった。地震時管制運転装置が作動し
1)エレベーターの停止・閉じ込め等に関する
論点
(1)停止・復旧に関する課題と検討事項
○震度 5 程度の地震においては、停止させて技
術者に安全確認させる台数を減らすべき。
停止したものについては、二次災害を防止するた
【検討項目】
め、専門技術者が安全性を確認して復旧した ( セ
・停止させる地震の大きさ。
キュリティ上立ち入ることのできなかった建物を
・停止させて安全確認しなければならない危険
除き、翌日 24 日 ( 日 ) 中に復旧 )。
エレベーター利用者にとっての安全上、問題
であると考えられている「閉じ込め事故」は 78
件発生した。保守台数 227,000 台に対しては僅か
性(地震時管制運転装置をつけずに運行を続
けたエレベーターの危険性)の検証。
○停止させたエレベーターの復旧に要する時間
を短縮すべき。
0.03%となる。うち、地震時管制運転装置つきの
【検討項目】
エレベーターが 73 台であり、その停止原因につ
・自動復旧の拡大可能性(最新タイプは震度 4
いては、これが報告された時点では、ドアの異常
を検知して停止する緊急停止装置が優先して作動
した影響と考えられるが、詳細はなお調査中とさ
れている。閉じ込めからの救出時間は、通報を受
けてから最大 170 分(着床・停止した階の乗り場
側ドア部分が封鎖されていたケース)
、平均は約
50 分弱であった[数値はいずれも関東地区内 ( 東
程度まで自動復旧)
。
・復旧のための技術者の地震時の体制。手順。
優先順位。
・保守会社以外の者(他会社、建物管理者等)
による復旧操作の可能性。
・保守会社との連絡方法。
(2)閉じ込め・早期救出に関する課題と検討事
項
表2 千葉県北西部の地震におけるエレベーターの閉じ
込め状況
保守台数 (A)
227,000
うち地震時管制運転装置あり (B) 144,000 B/A 63.44%
うち装置が作動し停止 (C)
64,000 C/B 44.44%
閉じ込め台数 (D)
78 D/A 0.03%
E/B 0.05%
うち地震時管制運転装置あり (E)
73
E/C 0.11%
部品の故障・損傷等台数 (F)
44 F/A 0.02%
○閉じ込めを極力減らすべき。
【検討項目】
・地震によるエレベーターの故障対策。
・ドア開放検知による緊急停止装置と最寄階ま
で運行しドア開放する地震時管制運転装置の
バランス。
○閉じ込めの救出時間を短縮すべき。
【検討項目】
・閉じ込めによる心身への影響、危険性(救出
44
2006 予防時報 227
時間の目標)
。
・外部、保守会社との連結方法。
・救出のための技術者の体制、手順、優先順位。
・消防等との連携。その他の者による救出の可
「昇降機耐震設計・施工指針」
:
1.2 耐震安全性の目標
(1) 昇降機(エスカレーター等を含む)は、その
建築物が耐用年数中に数度は遭遇すると予測
能性。
される中地震動に対して、地震後も支障なく安
(3)故障・損傷に関する課題と検討事項
○閉じ込めを極力減らすべき。
全に運転が続けられるものとする。
(2) エレベーターは、その建築物が耐用年数中に
【検討項目】
稀に遭遇するかもしれない大地震に対して、機
・地震の規模とエレベーターの故障・損傷。
器に損傷は生じても乗客の安全が確保できる
・耐震対策。
ものとする。
(4)建物管理者・利用者に対する周知等に関す
る課題と検討事項
○建物管理者・利用者等に対し、地震時のエレ
ベーター運行等に関する十分な情報を提供す
べき。
【検討項目】
・ エレベーターが一定の地震時に停止するこ
と、復旧手順閉じ込められた場合の対応等に
関する利用者等への平時からの周知。
・かご、乗り場、管理室等における表示、音声
案内等。
以上、本報告書に記載された分析結果等につい
て紹介したが、今後の昇降機の耐震設計基準策定
に当っては、エレベーターが設置される建物自体
の耐震設計基準との整合性をより図るべきである
ことは先にも述べた。
通常、地震応答解析するときの地震動の大きさ
は、これに対応して以下のように 2 レベルで考え
ている。
レベル1地震動:当該建築物の耐用年数中に
一度以上受ける可能性が大きい地震動を指し、こ
・非常時の人々への情報提供のあり方。
の地震動に対して、主要構造体は概ね弾性的な挙
2)発生した現象に関する分析等
25kine)
−停止・復旧に関する分析−
○地震時管制運転装置の停止メカニズム
地震時管制運転装置は、一般エレベーター
の場合、P 波又は 80 Gal の揺れ(震度4程度)
を感知して最寄階に着床・ドア開放、さらに
150 Gal の揺れ(震度 5 弱程度)を感知すると、
専門技術者による安全確認まで、運転を再開し
ないプログラムとなっている。
○自動復旧する地震の揺れのレベル
停止台数を減らすためには、自動復旧する地
震の揺れのレベル(現在は 150 Gal)を上げる
ことが可能かが課題。
現行の耐震指針の考え方は、震度 5 弱程度で
動で応答することを目標とすること。
(最大速度
レベル 2 地震動:当該建築物の敷地において、
過去及び将来にわたって最強と考えられる地震動
を指し、この地震動に対して建物は倒壊したり、
あるいは外壁の脱落等の人命に損傷を与える可能
性のある破損を生じないことを目標とすること。
(最大速度 50kine)
これを先に述べた「昇降機耐震設計・施工指針」
での 2 つの地震レベルと比較すると(ゴシック体
で記載の部分)
、以下のような関係があると思わ
れる。
EV
中地震動
≦
レベル1
地 震 動
<
EV
大地震動
<
レベル 2
地 震 動
は、安全確認後に支障なく運転継続が可、震度
このように、本来同一の大きさである地震動を
5 強以上では機器は損傷しても乗客の安全は確
対象にするべきであるのだが、設計対象が異なる
保されるレベル。
とこの大きさが変わるといった「耐震設計レベル
の不一致」が生じることがある。何を基準にして
45
2006 予防時報 227
地震の大きさ(対象とする機器・建物等にどの程
度の影響を及ぼすか)を規定するかは基本的な問
題であり、
このことも地震時にエレベーターを「止
める止めないの判断」を難しくしている一つの要
因となっている。ただし、現在この「止める止め
ないの判断」の高度化を図る手法がエレベーター
メーカー各社においても鋭意検討されている。
図1 P 波(初期微動)と S 波(主要動)の関係
5.緊急地震速報の利用
起こされることから、震源の近くで地震計が P 波
本年 8 月 1 日から気象庁により本運用が開始さ
を検知して、地震の規模や位置を即時的に求め、
れた「緊急地震速報」のエレベーターシステムへ
それを的確に伝達するシステムが構築できれば、
の適用に関しては、特定非営利活動法人リアルタ
多くの場合地震の大きな揺れが到着する前に、防
イム地震情報利用協議会(http://www.real-time.jp
災対策を実行することが可能となるわけである。
/)において、本システムの実用化を目指し、2002
このような緊急地震速報を活用するシステムが開
年から各分野ごとに WG を設置して検討が進めら
発されれば、主要動が到着する前にエレベーター
れてきた。大型施設対応 WG(翠川委員長(東工
を減速、停止させることや、火災の原因となる
大)
)には「エレベータ分科会」を設置して検討を
燃料等の遮断が可能となり、地震による被害を
進めてきた。また、財団法人建築設備・昇降機セ
減少させることが期待されている(参考:特定
ンターには、これを受け緊急地震速報をエレベー
ター制御に活用するための課題整理検討委員会
非営利活動法人リアルタイム地震情報利用協議会
(http://www.real-time.jp/)
)
。
(藤田委員長(東京電機大)
)が設置され、2005 年
ここでは、前述の財団法人建築設備・昇降機セ
3月に報告書がまとめられた
(http://www.beec.or
ンターで行われた、緊急地震速報のエレベーター・
.jp/09.html)
。
システムへの活用検討結果について、その概要を
緊急地震速報とは、地震観測網から得られた地
紹介する。本委員会の目的は緊急地震速報(リア
震発生情報を即座に伝達し、地震災害の軽減を図
ルタイム情報)を活用し、早期にエレベーターを
ることや社会経済に与える損害を軽減するための
止め被害の最小化を図る方法と、震度及び到達時
情報である。図1に示すように、地震波には伝播
間を考慮した運転方式を提言することであった。
速度が速い「P 波(初期微動)
」と、伝播速度は
以下に示すような 2 つの前提をおき、緊急地震
遅いが大きな揺れを起こす振幅の大きい「S 波(主
速報(リアルタイム情報)の到達時間により、3
要動)
」がある。
つのケース分け(Case1 ∼ Case3)を考えること
地震による被害の大半は主要動到着以降に引き
とした。
図2 Case1:直下地震に近いもので 図3 Case2:震源が少し離れていて 図4 Case3:震源が離れていて余裕時間
が十分にある場合
余裕時間が 20 ∼ 40 秒位の場合
余裕時間が 0 ∼ 10 秒位の場合
46
2006 予防時報 227
・優先は緊急地震速報(リアルタイム情報)で停
策の被害も軽減できるであろう。
止させる運転方式である。
・実震度レベル(建物に取り付けている地震感知
器情報)により再運転の判断を行う。
6.緊急地震速報を利用した場合の閉じ
込め事故防止効果
Case1:直下地震に近いもので余裕時間が 0 ∼
10 秒位(例えば昨年 7 月に発生した千葉県北西
東京大学生産技術研究所目黒教授らは、本シス
部を震源とする地震はこれに当てはまる)の場合
テムを利用した場合の「閉じ込め事故防止効果」
→緊急地震速報の時間的余裕度が小さく、現行
について検討しているので、紹介させていただく
の S 波又は P 波を用いる方式で最寄階停止の
(参考:目黒、柳川、藤縄、六郷「緊急地震速報
方式とする(図2)
。
を利用した減災効果−エレベータの閉じ込め事故
Case2:震源が少し離れていて余裕時間が 20
防止効果について−」
、リアルタイム地震情報利
∼ 40 秒位の場合。
用協議会第 1 回技術評価委員会資料,評価 1-08,
→現行の S 波又は P 波を用いる方式に時間条件
2005 年 10 月.
)
。
をいれ走行中のエレベーターは建物の安全な
ここでの検討は、下記の手順に従って実施して
避難階で止める。停止中のエレベーターは被
いる。
害の少ないと考えられる安全待機階まで動か
(1)エレベーターの最寄階停止の動作モデル作成
す(図3)
。
(2)震源からの余裕時間を算出
Case3:震源が離れていて余裕時間が十分にあ
る場合。
(3)余裕時間別の閉じ込め件数を想定し、
(1)
のモデルを用いて閉じ込め事故防止台数を
→現行の S 波又は P 波を用いる方式に時間条件
予測
をいれ、走行中のエレベーターは建物の安全
また、最近発生した、千葉県北西部地震(2005
な避難階で止める。その後、安全待機階まで
年 7 月 23 日 16 時 35 分)
、宮城県沖地震(2005 年
運転する。停止中のエレベーターは安全待機
8 月 16 日 11 時 46 分)の閉じ込め事故に関して
階まで動かす(図4)
。
検討している。
ここで、最寄階とは、
「エレベーターが停止で
表3は、千葉県北西部を震源とする地震(2005
きる最も近い階」のことで、避難階とは「乗客を
年 7 月 23 日 16 時 35 分)での、各都市までの主
最も安全に降車できる階」
、そして安全待機階と
要動到達時間(震源からの余裕時間)とその地
は「建物から考えられるエレベーターにとって最
点での計測震度を示したものである。注目すべき
も被害の少ないと考えられる階」であるがこれに
は、震源のほぼ直上の地点である千葉市において
ついては検討が必要である。安全待機階の適正位
も、3.6 秒前に地震の到来を知ることができたと
置が明確にされれば、特に長周期地震動による主
いうことである。3.6 秒で何ができるのかと言わ
表3 千葉県北西部地震での各都市まで
の余裕時間と計測震度
主 な 都 市 余裕時間(秒)計測震度
千葉市
3.6
4
木更津市
5.1
5弱
銚子市
9.5
2
つくば市
7.4
4
江戸川区
4.8
5弱
千代田区
5.7
4
八王子市
11.2
3
さいたま市
7.9
4
横浜市
7.1
5弱
れればそれまでであるが、現在の高度化したエレ
ベーターの制御技術にこの僅かな余裕時間を取り
込み、より安全なシステムを構築することは決し
て不可能ではないし、こうした試みを続けるべき
表4 閉じ込め事故(関東地区)
保有台数
閉じ込め台数 閉じ込め率
地震時管制運転装置あり
144,000
73
0.05%
地震時管制運転装置なし
83,000
5
0.01%
合計
227,000
78
0.03%
救出時間:通報を受けてから最大 170 分間、平均で約 50 分間
47
2006 予防時報 227
である。表4は閉じ込め事故に関する台数をまと
したエレベーター閉じ込め事故については 100%
めたものであり、表2に示したものをまとめたも
回避することができると結論している。
のである。表3、表4に示した状況を、目黒らの
このように、緊急地震速報を利用することで、
提案する手法でどの程度回避できるかを示したの
閉じ込め事故等の回避が可能になるとともに、エ
が表5である。
レベーター利用者にとっての総合的な安全性が向
ここでは、震源から 30km 以内の地域を余裕時
上する可能性が極めて高いと考えられることから、
間の違いから 3 つに区分し、エレベーターの最
今後はより完成度の高い制御技術を構築するため
寄階停止の動作モデルから回避台数を予測してい
に、実機を用いた試験等の実施が望まれる。
る。その結果、震源直上の地域(現実には千葉市
など)である余裕時間 4.0 秒までの地域において
7.おわりに
でさえも、閉じ込めが生じた 26 台のうち、24 台
がこれを回避でき、閉じ込め回避率 93.7%という
先頃、
(財)日本建築設備・昇降機センターを事
高い結果が得られている。また、ほぼ東京全域を
務局として、昇降機耐震設計・施工指針改訂(2007
網羅する余裕時間 5.0 秒の地点では、全ての閉じ
年版)委員会が設置された。この指針においては、
込め事故が回避でき、最寄階に安全に停止可能で
ここで紹介した「緊急地震速報」等を用いたより
あるという結果が出ている。
高度なエレベーター制御技術に基づく耐震設計技
目黒らは本資料の中で、2005 年 8 月 16 日に発
術や、長周期地震動への対応策などについて検討
生した、宮城県沖地震における結果についても考
されるはずである。
昇降機の耐震設計の改定に伴っ
察している。閉じ込め回避技術は、S 波が到達す
て、考慮すべき項目を挙げると、
るまでの余裕時間のみによってその可能性が評価
・建物地震被害とエレベーター・システム地震被
でき、地震の性質や、地盤性状の違いは排除でき
る。表6は当該地震において、緊急地震速報と実
際に S 波が主な都市に到達するまでの余裕時間を
記したものである。震源から一番近い石巻市で余
裕時間が約7秒であり、宮城県沖地震関連で発生
表5 余裕時間別の閉じ込め発生・回避台数予測
停止台数と閉じ込め防止率(震度 5 弱)
余裕時間
閉じ込め台数 閉じ込め防止率 回避台数
3.5 ∼ 4.0 秒
26 台
93.7%
24 台
4.0 ∼ 4.5 秒
26 台
98.5%
26 台
4.5 ∼ 5.0 秒
26 台
100.0%
26 台
合計
78 台
−
76 台
表 6 宮 城 県 沖 地 震(2005 年 8 月 16 日 11 時 46 分 )
の場合の余裕時間
主な都市 緯度
経度
余裕時間(秒) 計測震度
石巻市
38.42
141.31
6.7
5強
塩竈市
38.31
141.03
11.5
5弱
仙台市
38.27
140.87
14.5
5強
古川市
38.57
140.96
14.6
5弱
白石市
38.00
140.62
19.7
5弱
一関市
38.93
141.13
16.4
5弱
山形市
38.25
140.34
25.1
3
相馬市
38.79
140.92
14.9
5強
福島市
38.76
140.48
23.7
5弱
48
害の相関分析→バランス良い耐震設計
・エレベーター・システムとしての地震応答は、
建物挙動に支配されることに配慮した、合理的
な設計
・加速度ベースの「力」の概念だけではなく、「変
形」
、
「変形制限」の考えも重要
・緊急地震速報等を利用した新たなエレベーター
制御技術
・長周期地震動対策→遠地地震だけではなく、想
定東海・東南海地震でも長周期成分は大きい
・実験的に建物システムとしての耐震裕度試験→
建物構造強度だけではなくエレベーターなどの
設備機器の機能維持等を含めた総合的検討
等が、現時点において考えられる。
本文冒頭でも述べたが、エレベーターは、その
機能を実現・具体化する「技術」が日常生活にお
いて「人」に触れる形で使われるという「生活に
密接」した技術であるから、
設計者、
製造メーカー、
保守業者、施主そしてユーザーがこのことに配慮
し、お互いに「安全性の向上」ということを念頭
において、この利便性の高い有益なシステムを利
用していくことが大切であると考える。
2006 予防時報 227
2006 年4月・5月・6月
幅工事が原因で線路が隆起。山手線
内のバルブが何らかの原因で開き、
災害メモ
約 5 時間半不通。5 人負傷。
臭素微量漏洩。44 人負傷。
●5・1 茨城県龍ヶ崎市の県道で
●6・3 東京都港区のマンション
乗用車が縁石に乗り上げ、反対側の
「シティハイツ竹芝」12 階で、男子
ガソリンスタンド外壁に衝突・横転。
高校生が自転車にまたがりエレベー
3 人死亡、1 人負傷。
ターを降りる際、扉が開いたまま上
●5・2 群馬県伊勢崎市でパト
昇。床と天井に挟まれ死亡。
カーが追跡中の乗用車が大型トラッ
クと正面衝突。4 人死亡、1 人負傷。
★海外
●5・5 福岡県太宰府市の国道 3
●4・1 中国・山東省招遠市の火
号の緩やかな左カーブで乗用車(RV
薬工場の包装作業場で爆発。29 人
車)が横転、中央分離帯の橋脚に激
死亡、2 人負傷。
突、大破。4 人死亡、2 人負傷。
●4・2 アメリカ・テネシー、ミ
●6・13 東京都北区の都電荒川線
ズーリ、イリノイ、アーカンソー、
梶原−栄町停留所間で、試運転中の
オハイオ、インディアナ、ミシシッ
電車に三ノ輪橋発早稲田行き電車が
ピ、アラバマ、ジョージアの各州で、
衝突。25 人負傷。
2 ∼ 3 日、7 ∼ 8 日に竜巻多数発生。
住宅やモービルホーム 1,000 棟以上
★海上
大破。直径 10km 以上の降雹、停電
●4・9 鹿児島県南大隅町の佐多
など。42 人死亡。
岬沖で高速船トッピー 4 が海面の物
●4・3 アメリカ・マサチューセッ
体に衝突。乗員乗客全員負傷。流木
ツ州ボストンのエマーソンカレッジ
の可能性。110 人負傷。
の 14 階建て学生寮建設工事現場で、
足場とクレーンが倒れ道路上の車を
★自然
押しつぶす。3 人死亡。
●4・21 伊豆半島東方沖で地震。
●4・10 インド・ウッタルプラデー
●5・19 秋田県秋田市の木造 2 階
M5.4、深さ約 7km。伊豆大島町、利
シュ州メーラトの電子製品見本市会
建て住宅から出火。約 160m 全焼。
島村、小田原、真鶴、熱海、伊東、
場でショートにより出火。エアコン
隣家 3 軒の一部焼損。4 人死亡、1
下田、伊豆など震度4。17 日から
つきの三つの巨大テントが焼失。各
人負傷。
地震多発、無感地震多数。3 人負傷。
テントには出口が 1 箇所しかなかっ
●5・26 大阪府和泉市の 8 階建
● 6・12 大 分 県 中 部 で 地 震。
た。52 人死亡。
て 市 営 住 宅 6 階 の 住 宅 か ら 出 火。
M6.2、深さ約 146km。大分県佐伯市、
●4・10 中国・山西省原平市の石
3LDK 約 70m の う ち 約 30m 焼 損。
愛媛県今治市、八幡浜市、伊方町、
炭電力会社の従業員用病院地下車庫
留守番の兄妹 3 人死亡。簡易ライ
西予市、広島県呉市などで震度5弱。
で大爆発。5 階建て建物半壊。30 人
ターで火遊びの可能性。
8 人負傷。
死亡、7 人負傷。
★火災
2
2
2
●4・10 ケニア・マルサビット(ナ
●5・31 鹿児島県薩摩川内市の木
造 2 階建て住宅から出火。住宅約
★その他
イロビの北東 450km)でナイロビ発
190m と木造倉庫約 24m 全焼。3 人
●5・22 東京都大田区の羽田空港
のケニア空軍機 Y-12 型機(中国製、
死亡。
沖を航行中のケミカルタンカー「秀
双発プロペラ機)が悪天候で視界不
宝丸」でベンゼンが入っていたタン
良の中着陸しようとして丘の上に墜
★陸上交通
クを洗浄中の乗組員 3 人死亡。
落。14 人死亡、3 人負傷。
●4・24 東京都新宿区の JR 高田
●5・31 茨城県神栖町の合成ゴム
●4・15 インドネシア・ジャワ島。
馬場駅附近で、湘南新宿ライン普通
メーカー「日本ブチル」鹿島工場で
駅に停車中のジャカルタ発スラバ
電車の運転士が異音を感知。都道拡
臭素タンクの配管を交換中、タンク
ヤ行き旅客列車に別の旅客列車が追
2
2
53
2006 予防時報 227
突。追突した列車の運転士が車掌の
が 多 く、 倒 壊 多 数。5,782 人 死 亡、
停車要求を無視 ? 13 人死亡、26 人
約 36,000 人負傷。
負傷。
●6・1 トルコ・炭鉱でガス爆発。
●4・17 メキシコ・メキシコシティ
17 人死亡、12 人負傷。
とベラクルスを結ぶ山岳道路で、メ
●6・3 中国・安徽省。40 人乗り
キシコ人観光客を乗せたチャーター
の軍の輸送機が竹林に墜落。40 人死
バスががけから谷に 200m 転落。定
亡。
員 46 人に 71 人乗車。ブレーキ故障
●6・5 アメリカ・ミシシッピ
やスピードオーバーの可能性。57 人
州の油田で貯蔵タンク 2 基と塩水タ
死亡。
ンク1基とを結ぶ配管を新設するた
●5・1 インド・製紙工場で大爆
め、貯蔵タンク上で作業員 4 人が溶
発・火災。夜勤労働者が数百人働い
接工事中タンク内の可燃性蒸気が爆
ており、百人余りが閉じ込められた。
発。3 人死亡、1 人負傷。
10 人死亡。
●6・12 イスラエル・ネタニア付
●5・3 ロシア・ソチでエアバス
近で約 200 人の乗客が乗ったテルア
編集後記
A-320-211 型機が悪天候の中着陸し
ビブ発ハイファ行きの旅客列車が踏
今号から本誌の編集に携わること
ようとして一回目は着陸不許可、二
切でトラックに衝突。5 人死亡、67
になりました。 55 年という非常に長
回目の着陸時に黒海の沖 6.5km に墜
人負傷。
い歴史を持つ本誌を担当させていただ
落。113 人死亡。
●6・14 アメリカ・イリノイ州の
くことを光栄に思うのと同時にプレッ
●5・7 タイ・パタヤの海浜リゾー
化学工場でヘプタンと灯油の混合溶
シャーも感じております。 皆さまからご
トにあるナイトクラブで火災。漏電
剤を過熱混合中、急に蒸気がタンク
の可能性。7 人死亡、50 人負傷。
から溢れ、爆発・炎上。1 人死亡、5
●5・18 中国・山西省の炭鉱で出
人負傷。
水。現場では少なくとも 3 日前から
●6・16 中国・安徽省の 2 階建て
技術伝承問題について取り上げていま
小規模な出水が発生し報告されてい
化学工場が爆発・全壊。10 人死亡、
す。 これは、 団塊の世代の大量退職
たが、経営者は無視。56 人死亡。
26 人負傷。
等の観点から、 昨今クローズアップさ
●5・20 アメリカ・ケンタッキー
●6・18 インドネシア・スラウェ
れている問題です。 自社の取組みと
州の炭鉱で点検中に爆発事故。5 人
シ島南部で豪雨により洪水や土砂崩
照らし合わせながら、ぜひご覧くださ
死亡、1 人負傷。
れ発生、地滑り相次ぐ。民家多数浸
●5・24 ベナン・タンクローリー
水、橋が流され道路寸断、多数の村
が道路から転落しガソリン漏洩。夜
が孤立。310 人以上死・不明。
陰に乗じてガソリンを取りに人々が
●6・27 ブラジル・ペルナンブコ
HP に掲載) 出演してくださる先生方
集まったところで爆発・炎上。54 人
州レシフェ市中心部で無人の古い 3
のお話は惹きつけられるものばかりで、
死亡。
階建てビル崩壊、火災。7 人死亡、7
今から楽しみです。 (山本)
● 5・27 イ ン ド ネ シ ア・ ジ ャ ワ
人負傷。
島のジョクジャカルタ付近で地震。
●6・28 中国・遼寧省阜新の炭鉱
予防時報 創刊 1950 (
M6.3、深さ 10km。レンガ造りの家
でガス爆発。26 人死亡、37 人負傷。
*早稲田大学理工学総合研究センター内 災害情報センター
(TEL.03-5286-1681)発行の「災害情報」を参考に編集しました。
ホームページ http://www.adic.rise.waseda.ac.jp/adic/index.html
FAX または電子メールにて、ご意見・ご希望をお寄せ下さい。
FAX:03-3255-1223 e-mail:angi @ sonpo.or.jp
54
編集委員
秋山 亘 あいおい損害保険 ( 株 )
石川博敏 科学警察研究所交通科学部長
小出五郎 科学ジャーナリスト
小林輝幸 東京消防庁次長兼
予防部長事務取扱
桜井由夫 ( 株 ) 損害保険ジャパン
鈴木 哲 三井住友海上火災保険 ( 株 )
田村昌三 横浜国立大学教授
長谷川俊明 弁護士
本田吉夫 日本興亜損害保険 ( 株 )
森宮 康 明治大学教授
八田恒治 東京海上日動火災保険 ( 株 )
山岸米二郎 ( 財 ) 気象業務支援
センター参与
山崎文雄 千葉大学教授
指導をいただきながら、 より良いもの
にしていきたいと思います。 よろしくお
願い致します。 (阿見)
今号の座談会では、 企業にせまる
い。
(齋藤)
現在、 長い歴史をもつ本予防時報
を活用した試みとして、ぼうさいカフェ
を企画中です。(詳細は協会だより、
)
昭和
25 年
© 227 号 2006 年 10 月1日発行
発行所 社団法人 日本損害保険協会
編集人・発行人
業務企画部長 竹井直樹
東京都千代田区神田淡路町2−9
© 本文記事・写真は許可なく複製、
配布することを禁じます。
制作=株式会社阪本企画室
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COOKING AND FOOD
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